映画監督 飯塚健の「日々散々」

2012年12月05日 更新

第18回『導かれる確率』


走ってますか、皆さん。気付けば、もう師走ですよ。

早いもので、今年も終わりのカウントダウンが聞こえてきます。「よし、今年はイイ感じだったな!」とガツンと胸を張れる方もいれば、「まずまずの一年だよな」と納得はできる方もいるでしょうし、「ああ……今年は全然ダメだった」と項垂れる方もいらっしゃることでしょう。いずれにしても、謎の感傷がぬたりと忍び寄り、どうにも思慮深くなる季節と言える気がします。

かくいう私もそうで。

先日ワイフと、しょっちゅう一緒にいる妹のような女優・小林涼子と、ふらりと立ち寄った初めてのお店で、奇遇にもばったり知ってる顔に遭遇したんですね。その顔は、これまたよく一緒にゴハンを食べたりする、阿部進之介という俳優で。彼もまた、友人とふらりと立ち寄った初めてのお店だったらしく。

とすると、それはそれなりの確率の下に遭遇したことになるわけですよね。まずその日、それぞれが外でご飯を食べるという選択をし、その場所に下北沢を選び(その店は下北沢だったのですが、さほど頻繁に行く街じゃないんです)、数ある店のうち、その魚料理の店を選び、更に訪れた時間帯が奇遇にも重なったという。

例えば、神さま的な誰かが、賽(さい)を投げて世界を回しているとして、導かれた確率と偶然には何か意味があると思うんですよ。その「何か」がなんなのかは知る由もないんですけど、今はまだ。

翌日、進之介とやり取りをしたのですが、やはり彼も似たようなことを思ったらしく。「ジム・キャリーの映画『トゥルーマン・ショー』みたいに、誰かの仕業で世界が回っている気がしました」なんてメッセージが来たりで。

私は私で、ダニー・ボイル監督、ジェームズ・フランコ主演の映画、『127時間』を思い出しました。アーロン・ラルストンという登山家が経験した実話がもとになっている映画なのですが、壮絶です。キャニオンの裂け目に落下し、巨大な岩に右腕が挟まれ、身動きが取れなくなった男が、水もなくなり日に日に衰弱していく中で、生きるために自分で自分の右腕を大して切れないナイフで切り落として脱出する、ってそういう映画で。朦朧とする意識で、やがて男は思うのです。

「この岩は、何億年も前から、俺が来るのを待っていた」「俺の右腕を潰すために」そしてそれは、「すべて俺が招いた結果だ」「今までの俺の行動のすべては、この裂け目に繋がっていたのだ」と。

導かれる確率の仕組みはわからないけれど、今年のすべての行動一つ一つが、師走であるこの12月に繋がっている、とは思えます。とすると、まだまだ充実の一年にできる可能性はきっとあるということでしょう。

皆さん、まだまだ今年は終わりじゃないですよ。元気出して、締め括りましょう。

バックナンバー

第17回『再起動』

第16回『復活LIVE!!』

第15回『SOUMASAN 48』

第14回『重大エネルギー』

第13回『瞬間』

第12回『習慣』

第11回『ピンポンダッシュ』

第10回『クランクアップ』

第9回『Live & Session』

第8回『音楽のチカラ』

第7回『オレンジな考察』

第6回『ハングオーバー』

第5回『人はそれでも移動する』

第4回『モノガタリ』

第3回『信じるチカラ』

第2回『本気は、出すためにある』

第1回『3連チャン』

DVD情報

『荒川アンダーザブリッジ THE MOVIE スタンダードエディション』
出演:林遣都 桐谷美玲
発売日:8月8日
価格:¥3990(税込)
発売・販売元:アニプレックス
(C)2012 中村光/スクウェアエニックス・AUTBパートナーズ

筆者プロフィール

飯塚健(いいづか けん)
1979生まれ。映画監督。脚本家。小説家。主な作品に、『Summer Nude』、『荒川アンダーザブリッジ』(ドラマ・映画共に)、『REPLAY&DESTROY』、『FUNNY BUNNY』(舞台)などがある。

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