映画監督 飯塚健の「日々散々」

2012年09月12日 更新

第7回『オレンジな考察』

ベルトコンベアを想像して欲しい。我々はその上を流れる空き缶である。

列を成した大量の缶たちは流れに身を任せ、ジュースが注がれるのを今か今かと待っている。無論そのまま何も考えず、されるがままオレンジに身を染め出荷されても、それはそれで幸せだと思える缶もいる。

がその反面、「私はコーヒーの方が似合うのにな」と葛藤している缶もいれば、「俺はおいおい、ビールになるぜ」と得意気に吹聴する缶もいる。更には、それを憧れの眼差しで聞いてるアホ缶もいるし、幸か不幸か、ベルトから飛び出しちまった悲しき缶もいる。

その中でも、運良く拾われ洗われて、再びベルトに戻される缶もあれば、誰にも見つけて貰えず、そのままどこかに消えちまう缶もある。

…… という千差万別、たくさんの空き缶の中で、ごく普通にオレンジジュースを注がれ、出荷される缶がある。彼はその流れをごく普通に受け入れているが、幸せだとは決して思っていない。一見その缶は、他の缶と差異はなく、無気力にも見えるだろう。

ところが、である。

彼は(或いは彼女は)箱詰めされた段ボールの暗闇で、懸命に願っている。少しでも、ほんの少しでも「俺は甘くなろう」と。甘くて甘い美味しいオレンジジュースになろうと、切に想っている。叶うとは限らない。というより、叶うはずもない。だが想っている。

想いは時に、リアルを超えると信じて。ピザポテトにも、ハッピーターンにもアタリはあるじゃねえかと。

そして、その空き缶こそが私である。

と、これは一体なんの話かと言いますと……

夏が過ぎ去りそうで過ぎ去らない。はっきりしない季節模様に若干ダルい。昨日もロケハンをやっていたのだけれど、まあ暑いし焼けた。とそのように撮影現場が目前に迫っているからか、美打ち終わりの食事の席で、「ずばり、イイ俳優部ってなんだろうね?」なんて高級な話題になりました。

内心では即座に「ずばり知りませんよ、そんな高級な答え」と思いながらも、返してみたのが先の考察です。

思うに、そんな空き缶こそが、BEST of 俳優部だと私は思うわけです。

そして、そんな迫る撮影現場に関し、来週あたり詳細情報解禁です。

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第5回『人はそれでも移動する』

第4回『モノガタリ』

第3回『信じるチカラ』

第2回『本気は、出すためにある』

第1回『3連チャン』

DVD情報

『荒川アンダーザブリッジ THE MOVIE スタンダードエディション』
出演:林遣都 桐谷美玲
発売日:8月8日
価格:¥3990(税込)
発売・販売元:アニプレックス
(C)2012 中村光/スクウェアエニックス・AUTBパートナーズ

筆者プロフィール

飯塚健(いいづか けん)
1979生まれ。映画監督。脚本家。小説家。主な作品に、『Summer Nude』、『荒川アンダーザブリッジ』(ドラマ・映画共に)、『REPLAY&DESTROY』、『FUNNY BUNNY』(舞台)などがある。

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