映画監督 飯塚健の「日々散々」

2012年09月05日 更新

第6回『ハングオーバー』

「あーあー。この2、3日中に、実家の庭から石油でも吹き出ねえかなあ」などと時折、思ってしまうことがあります。単に漠然と、わけもなくヤル気が出なかったり、こと明確に、わけがありダルい時などがそれです。まあ最近はそんな悲しい出来事には直面してないのですが。ともあれ、そういう著しい無気力状態に陥った時には『ハングオーバー』という映画を観ることにしてます。(PART 12かは気分によります)

ご覧になっていないという方もいらっしゃると思うので、簡単に物語の筋を説明しますと……

結婚することになった男友だちのために、仲間で旅に出ます。「独身最後の数日を超漫喫しようぜ!!」という目的の、野郎4人だけの男旅です。映画はそんな野郎どもが宿泊先のホテルで目覚めるところから始まります。酷い二日酔いで、とにかく頭が痛いし、昨夜の出来事なんてまったく覚えちゃいない、という最悪の目覚めです。どころか、ふとトイレに行けば、なぜか猛獣のトラがわめいているし、仲間の一人の顔面にはエキセントリックなタトゥーが彫られていたりと、のっぴきならない状況がてんこ盛りです。何よりマズいのが、肝心の旅の主役・結婚を控えた友だちの姿が消えています。

「こりゃ大変だあ!!」と残された3人の野郎どもは、ありもしない記憶を頼りに、友だちの行方を捜します。……と簡単に言えば、「二日酔いの男たちが、なくした記憶を取り戻す」というシンプル極まりない筋書きなのですが、これがまあ痛快で笑えるのです。

「あ、そこお金かけちゃうんだ」と日本映画ではなかなか予算が回らないところ(超クダらないシーンなど)も、ポップコーン・ムービーの名にふさわしく、贅沢派手に撮ってます。

中でも私が最も好きなのが、「記憶をなくすほどのドンチャン騒ぎ」の模様を、映画の最後、エンドロールの横で写真で見せるセンスです。物語の本筋とは無関係にもかかわらず、そのハジけっぷりが最高にクダらない。と同時に、サービス精神の固まりです。あれをやられちゃ、途中で席を立つわけにはいきません。

私にとって、「クダらない」とは最高の褒め言葉なので、そういった遊び心あふれる映画に触れると、「ああ、映画ってイイなあ」とにやけてしまい、日常のあれこれなんて忘れて、「いっちょ頑張ってみますか」とそんな気持ちになるのです。

いわゆる“リアル”や、重厚なテーマを扱う映画ももちろん嫌いじゃないですし、なきゃダメだとも思います。がやはり私は、「観てくれた人が元気になる」という超アバウトな方針で今後も映画をつくろう、と思うのです。

……とまあ、なぜ“二日酔い”の映画について書いたかといいますと、察しの良い方は既にお気付きかも知れませんが、先週末、仲間と妻と繰り出した避暑地にて、全員見事猛烈な二日酔いに見舞われたからなのです。

最後に。嫌なコトがあったら、JUMPしましょう。けっこう解消されますよ。

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バックナンバー

第5回『人はそれでも移動する』

第4回『モノガタリ』

第3回『信じるチカラ』

第2回『本気は、出すためにある』

第1回『3連チャン』

DVD情報

『荒川アンダーザブリッジ THE MOVIE スタンダードエディション』
出演:林遣都 桐谷美玲
発売日:8月8日
価格:¥3990(税込)
発売・販売元:アニプレックス
(C)2012 中村光/スクウェアエニックス・AUTBパートナーズ

筆者プロフィール

飯塚健(いいづか けん)
1979生まれ。映画監督。脚本家。小説家。主な作品に、『Summer Nude』、『荒川アンダーザブリッジ』(ドラマ・映画共に)、『REPLAY&DESTROY』、『FUNNY BUNNY』(舞台)などがある。

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