映画監督 飯塚健の「日々散々」

2012年11月28日 更新

第17回『再起動』


使い続けているPCは、反応が遅くなる。

起動するまでにかかる時間は徐々に(というより日に日に)長くなるし、予期せぬフリーズなんかも増える。

人間の脳も同じだ。

およそ、長時間に及ぶ打ち合わせに光は射さない。そもそも人の集中力の持続は2時間という説もあるし、「たしかにそんな気もする」くらいには頷ける。がもちろん対極に、考えに考え抜いた先にしか、降りて来ない閃きがあることも重々承知している。

いずれにせよ、効率には休息が必要だ、というのも間違いない。はて、そう考えてみると、脳だけじゃなく、体の方はどうだろう。

生まれてこの方、食事を覚えたその日から、胃腸器官はフル稼働しっぱなしということにならないか? そりゃあガタもくるよ、って話にならないか?

というわけで週末、人生初の「断食」ってヤツにTRYしてみました。これまでも執筆のラストスパート中や、覚醒モードに入った編集中など、知らず気付けば50時間以上何も口にしていなかった、という事態はあったのだけど、意識的に食を断ったのは初めてのことです。

きっかけはその数日前、仲間うちでスペイン料理を囲んでいた時のこと。その場にいた一人が「俺最近、断食したんすよ二日間」と言い出し、それを聞いたもう一人が「いっとき俺、毎週日曜は食わないってやってたよ」と反応、更にもう一人が「いいですよねえ、断食」などとなったものだから、「あれ? 意外にみんな、断食やってんのね」と私は思った次第で。帰宅後、「ウチらもしてみよっか?」というワイフの一言が引き金となり、「じゃあとりあえず30時間ね」とのってみたわけですよ流れに。

いやあ、これがまあキツい。初心者ということで「プチ」から始めたのに、全然プチじゃない。なんなら、最後に摂った食事の直後から、既にやや腹が減ったと感じる始末。

「病は気から」とはよく言うけど、「もう暫く食べられない」と思うからこそ、どんどん腹は減りました。普段、空腹を感じる間隔の比じゃありません。「もう食べちゃおっかな」と思ったこと数知れず。たかだか30時間なのに。ほんと、己の精神力を試されてるぜ、と思いました。

そうして20時間くらいが経った頃、「どうもいつもとは様子が違うぞ」と胃腸の動きに異変を感じました。うまく言えないのですが、胃腸が休んでる感じっていうんですかね。飲んだ水がどう体に落ちてゆくかわかるというか。そうなってくると、ちょっと楽しくもなってくるんですよね。

まあそんなこんなで30時間が経った早朝、綺麗な朝陽と共に、謎の達成感の到来ですよ。マラソンと似た感じの。ああ、だから人は断食するのね、と妙に納得しました。人は達成感に弱いのです。

そして今、空腹について書いているからでしょう、猛烈に空腹を感じています。

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第3回『信じるチカラ』

第2回『本気は、出すためにある』

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DVD情報

『荒川アンダーザブリッジ THE MOVIE スタンダードエディション』
出演:林遣都 桐谷美玲
発売日:8月8日
価格:¥3990(税込)
発売・販売元:アニプレックス
(C)2012 中村光/スクウェアエニックス・AUTBパートナーズ

筆者プロフィール

飯塚健(いいづか けん)
1979生まれ。映画監督。脚本家。小説家。主な作品に、『Summer Nude』、『荒川アンダーザブリッジ』(ドラマ・映画共に)、『REPLAY&DESTROY』、『FUNNY BUNNY』(舞台)などがある。

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