ポーンを使った遊びこそが「Dragon's Dogma」の原点であり一番表現したかったこと――ディレクター 伊津野英昭氏へのインタビューを掲載

  • 更新日:2012年7月7日

 カプコンのPlayStation 3/Xbox 360用ソフト「Dragon's Dogma」(ドラゴンズドグマ)は,ハイファンタジーの世界を舞台としたオープンワールドタイプのアクションRPGだ。日本国内では48万本(※編集部調べ)を販売し,全世界の出荷本数も100万本を超えるなど,据え置きハード向けの新規タイトルとしては,近年まれに見るヒット作となっている。

 本作では,ドラゴンに心臓を奪われ“覚者”(かくしゃ)となった主人公による,ドラゴンを倒す冒険の旅が描かれる。ハイファンタジーの世界を冒険できるのが特徴で,キメラ,グリフィン,ハイドラ(ヒュドラ),サイクロプス,ゴブリン,ハーピー,リザードマンといった登場モンスター達は,ギリシャ神話などを原典としたイメージが,そのままの形で表現されている。



 本作では,パーティの仲間となる“ポーン”というキャラクターを最大3人まで仲間にできる。PlayStation NetworkやXbox LIVEにログインした状態でプレイすると,ネットワークを介してポーンの貸し借りができるようになっている。詳しくはインタビュー本文を読んでほしいのだが,本作のキモといえるほど特徴的なシステムになっているのだ。

 今回4Gamerでは,本作のディレクターである伊津野英昭氏にインタビューをする機会を得た。ポーンの生まれた経緯をはじめ,「Dragon's Dogma」の世界にはどのような意図が込められているのかなど,実際にゲームをプレイして気になったところについて,いろいろと話を聞かせてもらった。本作をプレイした人も,まだプレイしたことのない人も,ぜひ読み進めてほしい。
 なお,インタビュー中にはある程度のネタバレが含まれているので,読み進めていただくにあたり,その点はあらかじめご了承を。


※PCサイト


ポーンを使った遊びこそが「Dragon's Dogma」の起源


4Gamer:「Dragon's Dogma」は,王道のハイファンタジーを題材にしたタイトルですが,企画の立ち上げ時からその方向性は決まっていたのでしょうか。


伊津野氏:最初の企画段階では,SFや現代劇になる可能性もあったんですけど,プロジェクトがスタートしたときには,ハイファンタジーの設定で行くということで固まっていました。

4Gamer:ということは,オープンワールドのゲームを作るというのが最初にあって,そこにハイファンタジーの世界を付け加えたということでしょうか。

伊津野氏:いえ,実はポーンからなんですよ。自分と友だちの育てたキャラクターを,貸し借りして遊ぶゲームを作りたいという気持ちが根底にあって,それを形にするにはどういう世界やシステムがいいのか,いろいろと模索していたんです。
 以前からリアルなファンタジー世界のアクションゲームが作りたいとも考えていましたが,最初は別モノだったんですね。それがある日一緒になって,今の「Dragon's Dogma」の形になったことで,「これでいける」と確信を持てたんです。

4Gamer:ポーンは「Dragon's Dogma」で印象的な要素でしたが,ゲームの根本に関わるコンテンツだったんですね。プレイする前はサポートキャラ程度に考えていたんですけど,本当に自分が何もしなくても,ポーンが勝手に敵を倒してくれるのを見たときは驚きました。「アクションが苦手な人でも大丈夫」という謳い文句がここまでハマるゲームって,なかなかないと思います。

伊津野氏:僕らはアクションゲームを中心に作ってきましたけど,今までの経験上,「このゲームはアクションゲームが苦手でも楽しめますよ!」と言っても,アクションゲームが苦手な人はやっぱりプレイしてくれないんですよ。
 ですから,本当にプレイヤーが何もしなくても敵を倒せるくらいのことができないと,このゲームは失敗すると考えていました。自分より強いポーンを連れて冒険することもできますから,アクションゲームが苦手な方にも,胸を張ってお勧めできます。

4Gamer:一方で,パーティ編成と敵の相性が悪いと,まったく倒せる気がしないほど苦戦することもあるなど,メリハリが激しかったのも印象的だったのですが,こういう仕様にすることをいつ頃から考えていたんですか?

伊津野氏:最初からですね。
 僕は「Dragon's Dogma」の前に「デビル メイ クライ 4」を作っていたんですけど,「デビル メイ クライ」シリーズは,難易度の差こそあれ,ユーザーさんがどんな装備,武器,技を使っても敵を倒せるようにしましょう,というコンセプトが根底にあるんです。それゆえに,ゲーム側にかけられた制限もたくさんあったんですね。
 でも「Dragon's Dogma」では,パーティを組み直せるし,転職もできるから,その制約を取り払いました。ポーン担当スタッフには,倒せない敵がいてもいいから,その代わり個性を際立たせてほしいとリクエストしました。

4Gamer:普通は,特定のジョブで倒せない敵がいたら先に進めなくなるので問題になるけど,「Dragon's Dogma」の場合は,仮にプレイヤーがダメージソースになれなくても,ポーンが頑張ればなんとかなるという形でバランスが取れているわけですね。

伊津野氏:さすがに,魔法使い4人でゴーレムに挑んでも,まったく歯が立たないですけどね(笑)。
 メイジやソーサラーが使える魔法のほとんどは物理攻撃判定を持っていないので,物理攻撃しか通らないゴーレムのような敵との相性は悪いんです。実は,ソーサラーの魔法の中で,メテオフォールとロックビートには物理攻撃判定があるので,魔法使いだけのパーティでも絶対倒せないということはないんですが,時間は相当かかるとは思います。



4Gamer:メイジとソーサラーばかりのパーティでゴーレムと遭遇したときには,ゲーム内で2昼夜くらい戦っても倒せませんでした……。

伊津野氏:僕もそういう経験があります。最終的には,装備から杖を外して素手で殴って倒しましたから(笑)。
 開発中は,ソーサラーが使える魔法で物理攻撃判定を持っていたのは唯一ロックビートだけで,しかも出現する岩の破片にしか判定がないという時期もあったんです。ひたすらロックビートを唱えて,岩の破片が偶然当たるのをひたすら待つしかないという(笑)。さすがにまずいかなと思って,その後メテオフォールにも物理攻撃判定を持たせました。
 敵にも味方にも尖った個性を持たせることで,「ポーンの貸し借りが楽しくなるゲームにしよう」という目的を,より際立たせることができたと思います。

4Gamer:敵の特性によってパーティ編成を変えたほうがいいから,パーティメンバーが固定化しないというか,貸し借りが促進されますよね。

伊津野氏:高額のリムが必要になりますが,最初からレベルの高いポーンを借りれば,同じポーンを連れて旅を続けることも可能です。ただ,人から借りたサポートポーンは,同行中にレベルが上がりませんから,いずれ“使えない子”になります。
 パーティメンバーを交換しながら旅を続けるというループがしっくりきて,リスクはありますが自分好みの4人パーティでも冒険できる,というシステムが構築できたと思います。

4Gamer:サポートポーンは,パーティ同行中にレベルが上がらないというのも,パーティ構成をリフレッシュするいいアクセントになっていますね。

伊津野氏:開発中は,ポーンのデータをどのタイミングで更新するかという部分で悩んでいて,プレイヤーが宿屋に泊まって起きると,サポートポーンも成長しているというように,自動でデータを更新する形で考えていた時期もあったんです。
 ただ,データを更新したときに,サポートポーンのジョブが変わっていたら,自分の思いどおりのパーティ構成が維持できなくなる可能性も出てきます。その場所にリムがなかったり,ポーンが歩いていなかったりしたら,時間をかけて旅をしてきた行程をやり直すこともあり得ます。
 ユーザーさんになにかしら都合の悪いことが起きないよう,サポートポーンのデータ更新を手動にしたことで,ポーンのシステムがバシッと締まりましたね。



あえて親切でない世界にすることで,ポーンの存在意義が増す


4Gamer:ポーンでもう一つ印象的だったのが,外見はもちろんですが,キャラ性能としてのカスタマイズもかなり幅広いというところです。選択したジョブ,スキル,性格によって,ものすごく役に立つポーンもいれば,あまり役に立ってくれないポーンもいるというように,強さの本質は,レベルだけでは判別できないと感じました。


伊津野氏:ポーンのAIについては,対戦格闘ゲームを作っていたスタッフが担当しているので,その色が濃く出ているのではないでしょうか。
 対戦格闘ゲームでは,同じ操作系統で同じ数だけ必殺技を持てる中で,それぞれのキャラクターの個性を際立たせることがゲームの面白さにつながる,という考え方が根付いています。ポーンには,その経験が活かされているんですよ。

4Gamer:ただ,ポーンが転職できるジョブが6種類というのが,残念に感じたところでもあります。なぜ,ポーンのジョブをプレイヤーキャラクターのジョブより少なくしたのでしょうか?

伊津野氏:プレイヤーが2人分の要素を持てることによって,ポーンよりも万能感があることを味わってもらうのが一番の理由ですね。
 単純な強さや技術ではなく,近接や魔法といったパーティに足りない要素をプレイヤーが補えるようにすることで,「お前ら,俺がいないとだめだなぁ」と言いながらなんとかしてあげる感じを出してあげたかったんです。

4Gamer:なるほど。

伊津野氏:また,自分と友だちの育てたポーンを貸し借りして遊ぶことの妨げにならないようにするという意味合いもあります。
 「Dragon's Dogma」では,敵を倒すために,パーティメンバーのジョブとスキルの組み合わせといった要素のバランスを考えながら,パーティを組むのが戦略の一つです。
 先ほどもお話しましたが,ポーンの個性を際立たせるために,ジョブの特徴をかなり偏らせています。それぞれのジョブに一長一短があるから,目的に応じてパーティメンバーを頻繁に交換するループが生まれますが,ポーンが混成強化職にジョブチェンジできてしまうと,それ以外のジョブが雇われる機会は減ってしまうでしょう。
 そういった複合的な理由から,あえてポーンのジョブを少なくしています。



4Gamer:ポーンは性格によってセリフも変わりますが,移動中も戦闘中も,とにかくよく喋りますよね。

伊津野氏:ポーンで遊ぶことありきのゲームですから,そこにはコストも時間もROMの容量もかなり割きました。
 今までのゲームって,自分が頑張ってクリアするのが目的ですから,極端な話,サポートキャラが生きようが死のうが,AIが賢くてもアホでも,どちらでもよかったんですよ。僕もそうでしたが,AIというのはそういうものだと,ユーザーさんもきっと思っているはずです。

4Gamer:そういうところはあるかもしれませんね。

伊津野氏:でも人間だったら,使えない人でも普通は放っておかないじゃないですか。人間とAIの違いをずっと考えていて,AIがアホな子でも「何かを考えた結果,アホなことをやっている」ということが分かれば,どうでもいい存在ではなくなって構いたくなる,ということに気付いたんです。だからこそ,AIのキャラクターとパーティを組んで遊ぶゲームがいけると思ったんですよ。
 AIでも,「これからこういう行動をします」「こういう理由でこうします」というのが分かれば,アホな子なら「アホやなぁ」って気になるし,賢い子やったら「どこでそんなこと覚えてきたん!」ってなりますよね。

4Gamer:確かに,ポーンが敵に効かない攻撃を黙って繰り返していたら,出来の悪いAIだなあ,くらいのことしか感じないでしょうけど,「攻撃が効きません!」と喋るだけで,出来の悪い子でも愛着を感じてしまいます(笑)。

伊津野氏:ポーンが何を考えてその行動を取ったのか説明するには,プレイヤーに話しかけるのが一番だと考えて,今のポーンの形になりました。喋りすぎてうるさいと感じる人がいるかもしれませんが,逆に何も喋らなければ,どうでもいい存在になってしまうと思うんです。

4Gamer:ポーンでいえば,敵の弱点やクエストのヒントをアドバイスしてくれるのも面白いですね。あるアイテムを入手するクエストで,対象人物から「力づくで奪ってみろ」と言われたので倒してやろうかと思ったんですけど,ポーンに「やめたほうがいいです」と諭されたんですよね。心を見透かされたようで驚きました。

伊津野氏:そのあたりは,相当気を遣ったところです。
 ポーンが喋ってアドバイスをしてくれるというのは,「Dragon's Dogma」ではあえて,1人では冒険に耐えられないくらい,不親切な世界にしていることと関係しているんです。
 今どきのRPGは親切設計で,たとえば洞窟なら,遠くからでも分かれ道になっていることが分かるように,灯りが置いてあったりしますよね。でも「Dragon's Dogma」では,今までだとRPGの世界に仕込まれていた何気ないヒントを取り払って,代わりにそれを,ポーンが話す言葉として詰め込んだんですよ。



4Gamer:ゲームの世界から視覚的なヒント,いわば開発者の意図が見え隠れする不自然なオブジェクトがなくなった,ともいえるわけですね。代わりに,開発者がポーンに乗り移ってヒントを教えてくれるという感じで。

伊津野氏:まさにそうですね。ポーンを自分にたとえるなら,ゲームのことをよく知らないまま遊んでいる友人の隣で解説している,みたいなイメージでしょうか(笑)。
 企画段階でポーンのコンセプトを説明したときには,多くのスタッフから「自分で冒険をして発見をしたいのに,攻略本を渡してゲームをやらせるようなものだ。ポーンのようなシステムは邪魔なだけだ」という意見が出たんですよ。
 でもそれは,“親切な世界”が当たり前のゲームに慣れきっているからそう思うだけであって,何もヒントがない世界に放り込まれたら,「ポーン様,お願いですから何か教えてください!」っていう風になるんです(笑)。

4Gamer:この前,まさにそういう経験をしました。
 探しているアイテムが見つからないときに,ポーンが「このあたりにありそうです」ってアドバイスをしてくれたんです。でも,細かい場所までは教えてくれなかったから,「もう少し詳しく教えてよ!」と思ってしまいました。見事にハマったということですね(笑)。



伊津野氏:次にどうしたらいいかは,ポーンが勝手に喋って教えてくれますし,話しかける必要のあるNPCも,フラグが立っているときには頭上にバルーンが表示されますから,ポーンさえいれば大丈夫なんですよ。
 僕は,街にいる人全員に話しかけないと進行しないようなゲームってあまり好きじゃないので,「Dragon's Dogma」では基本的に,クエストの進行に関わらないNPCには,話しかけなくてもいいように作っているんです。

4Gamer:話しかけなくてもいい仕組みではありますが,NPCは,そのうち向こうから挨拶してくれるようになったりもしますよね。

伊津野氏:「人に好かれてイヤな人はいない」という考えから,すべてのNPCに好感度を設定したんです。好感度があっても何もないと面白くないので,好感度が高くなれば挨拶をしてくれるようになりますし,クエストも発生します。また,ストーリーにしっかりと関係するような仕掛けも入れています。


ファストトラベルが欲しくなるのは移動がつまらないから。それなら移動自体を面白いものにしようという発想


4Gamer:「Dragon's Dogma」では,ファストトラベルを,あまり積極的に採り入れていないですよね。“2周目”なら制限はほぼなくなりますが,1周目で瞬間移動できるのは領都グランソレンと「戻りの礎」を置いた場所の2か所までで,基本はどこに行くにしても,歩いて移動するというスタイルです。どういった理由から,このような仕様になったのでしょうか。


伊津野氏:1周目は冒険に集中してもらいたかったので,あえて入れなかったというのが理由です。
 ファストトラベルが欲しいのはすごく分かるんですけど,入れてしまうと,冒険で真剣に悩むときの感情の振れ幅が半減してしまうと感じたんです。
 「ここで飛び降りたら近道になるけど,もしかしたら死んでしまうかもしれない。でも,遠回りしたら夜になってしまうかもしれない。夜になったら怖いしなあ……」というように,冒険中の選択を一つ一つ,真剣に悩んでほしかったんですね。

4Gamer:確かに,夜になったら本当に真っ暗で,ランタンを灯しても数メートル先までしか見渡せないということもあって,遠出するときに朝に出発すると,着く頃に夜になって怖いし目的地を探すのも大変そうだなとか,強いモンスターに遭遇したら嫌だなとか,いろいろと考えてしまいます。

伊津野氏:そうなんです。だから「宿屋に泊まって夜に出発すれば,目的地に着く頃には朝になるな」とか考えたりするじゃないですか。それが楽しいし,そこまで含めての冒険なんですよ。
 僕は,距離とか道のりって,それ自体に価値があると思っているんです。よく「家に帰るまでが遠足です」と言いますが,それと同じで,家に生きて帰ってくるまでが冒険なんです。

4Gamer:冒険は本来,いつどこで命を落とすか分からない危険が潜んでいるものですからね。

伊津野氏:冒険の道のりすべてが命の重さに等しい,ということを感じてほしいんです。モンスターと遭遇して死ぬのも,崖から足を踏み外して死ぬのも,死んでしまうという意味では同じです。それを身を持って体験しないと,道中がいいかげんになってしまいますよね。いいかげんな道中では夜が怖くなくなるし,ゲームとして面白くなくなってしまうんですよ。



4Gamer:最近だと,プレイヤーのストレスを軽減するために移動を簡略化しているゲームが多いですが,そこをあえて逆行したといったところでしょうか。

伊津野氏:逆行というよりも,考え方を変えたというほうが正しいかもしれません。
 乱暴な言い方かもしれませんが,移動すること自体が面白くないのではなくて,移動がつまらないゲームになっているから,そう感じるんです。それなら移動を面白いものにしよう,という考え方なんですよ。

4Gamer:なるほど。

伊津野氏:たとえば,皆で山登りに行くときに,頂上に登って景色を見ることだけじゃなくて,自分達の足で山を登りながら途中の景色を見たり,皆と会話したりすることを全部ひっくるめての楽しみじゃないですか。ゲームの中でも,そういう楽しみ方ができるようにすればいいんですよ。
 マップ一つを取っても,目的地までの道のりがブラインドになっていて先が見えないし,いつどこで何が出てくるかも分からない――そんなシチュエーションが用意されていれば,プレイヤーをドキドキさせられるんです。これがゴールが見えててしかも一本道,敵も出てこなさそうな道中であったり,ワープで行程そのものを省略できたりしたら,つまらないものになってしまいますよね。
4Gamer:現実でたとえるなら,肝試しみたいなものですかね。ポーン達が「何かが出そうですね」とプレイヤーを不安がらせるようなことを喋ったり,敵に遭遇したときに「ゴブリンです!」といきなり叫んだりするのも,ドキドキさせる演出の一環といったところでしょうか。

伊津野氏:敵が出るのもイベントだし,出てきそうだけど出てこないのもイベントという思想です。また,何かモンスターがいそうだから遠回りしようかなと思っても,ポーン達がモンスターを見つけて攻撃を仕掛けてしまうようなこともあるじゃないですか。

4Gamer:そういうときは,つい「おいおいっ!」ってツッコミを入れたくなってしまいます。

伊津野氏:それも感情の揺れどころですよね(笑)。人ではないコンピューターのNPCに対して,そういった感情を引き出せただけでも,今回の試みは成功だと思います。

4Gamer:夜は数メートル先も見えないほど真っ暗というように,リアルに感じられる“不親切”な世界である半面,椅子のようなオブジェクトに当たり判定がなかったり,魔法はともかく2段ジャンプができたりと,ゲームとして割りきったフィクションの部分もあります。どのようなコンセプトで「リアル」と「ゲーム」の切り分けをしたのしょうか?


伊津野氏:僕らが掲げているのは,あくまで「リアルな世界の面白いゲーム」というコンセプトです。
 リアルの世界って,実はそんなに楽しくないじゃないですか。だから,リアルな世界を作っているけど,リアルすぎるとゲームとして楽しくなくなるのであれば,そこはリアルじゃなくていいよと。
 攻撃も「デビル メイ クライ」や「ストリートファイター」みたいに,モーションをキャンセルして技を出せますし,2段ジャンプだってできます。だって,出したい技を出したいときに出せたほうが,気持ちいいし面白いじゃないですか。これがリアル重視だと,もたもたしたゲームになってしまうんですよ。
 ゲームとして面白くなければならないし,操作しやすくなければならない。リアルさを優先して面白さを犠牲にしてはダメだという思想ですね。

4Gamer:なるほど。ちなみに,敵や味方の体力ゲージや操作パネルを含め,画面に表示されるインタフェースを表示/非表示できるようにしたのは何故ですか?

伊津野氏:世の中のトレンドが,表示させない方向に向いているからですね。
 FPSであったり,シリーズ作品であったりと,インタフェースがなくてもどんなゲームかほぼ分かるようならいいんですが,「Dragon's Dogma」は完全新規のゲームなので,最初は表示させるほうを選びました。いらないと感じたなら,オプションで全部消せますから,そこはユーザーさんにお任せするということですね。

4Gamer:とくに夜は,体力ゲージが表示されないと,敵がどこにいるかすら分からないから,スリルがかなり増しますよね。



「贋作」で実現したかったという,イベントシーンの微妙な空気感とは?


4Gamer:「Dragon's Dogma」では,人を生き返らせることができる竜の鼓動というアイテムがあります。普通なら,パーティのメンバーだけが対象になりそうなところを,NPCに使うこともできるというのが新鮮でした。あの発想はいつ頃生まれたんですか?

伊津野氏:竜の鼓動は,ゲームを作り始める前のアイデア合宿のときに出たネタですね。3つ集めないと使えないことから想像がつくかもしれませんが,7つ集めるとどんな願いでも叶う有名なアイテムみたいなものです(笑)。
 ただ,ポーンは死なないという設定上,対する人の死はとても重いものとして描きたかったので,人の死を立て続けに覆らせるようにはなっていません。エバーフォールにたどり着くまでは,「Dragon's Dogma」の世界に存在する「竜の鼓動の欠片」の数は限られているんです。

4Gamer:そういえばプレイしているときは,「あと1個あれば楽なのになあ」といつも思っていました。

伊津野氏:実は,制限が外れるまでは,世界に存在する竜の鼓動の欠片を持てる数をシステムでコントロールしているんです。竜の鼓動を使用すればまた入手できるようになるんですが,ポーンの貸し借りでプレゼントとしてもらわない限り,竜の鼓動を2個持てるか持てないか,というレベルで調整をしています。

4Gamer:そうだったんですか。もったいないと思ってしまって,イベント以外ではなかなか使う気になれなかったんですよね。

伊津野氏:それでいいと思います。人の生き死にってすごく重い話じゃないですか。護衛クエストで街の外に連れ出したマデリンが死んでしまったときなどに,「どうしよう……」と悩んで欲しかったんですよ。

4Gamer:イベントであるキャラクターが死んで,竜の鼓動で生き返らせるかどうかという選択肢が出たときには,生き返らせたかどうかで話の展開も変わるかもしれないし,とくに悩みましたね。2周目で別の選択肢を選べばいいやと割りきって,そのときは放置しちゃいましたけど。
 生死に関わるイベントがいくつもあると,伏線の回収というか,整合性を取るのがたいへんじゃありませんでしたか?

伊津野氏:こういった分岐点がないと遊んでいて楽しくないので,仕込める限りのネタを仕込みました。それはもう,大変でしたけど(笑)。



4Gamer:イベントでいえば,贋作のシステムが絡むことですごく面白いものになっていると感じました。指輪を取り返すイベントが象徴的ですが,「持ち主に渡さないといけないけど返したくない,どうしよう……」と,かなり物欲に悩まされました(笑)。

伊津野氏:あれは,すごく出来のいいイベントだと思っています。ちなみに,サロモの魔道書に関連したイベントも,贋作を渡したかどうかで展開が変わるんです。
 実は,贋作が絡んだイベントで一番やりたかったことは,贋作を渡したあとに起きるイベントの「あれ?」っていう微妙な空気感なんです。ゲームの中で,その気まずい感じの空気をどうしても出したかったんですよ(笑)。

4Gamer:あれは気まずかったですね(笑)。贋作を渡すとご褒美がもらえなくなってしまいますが,手に入れるための抜け道も用意されていたのも印象的でした。

伊津野氏:難易度はなかなか高いですけどね。NPCがいて出入りできないような場所でも,中に入れる隙を用意していることもあります。よく観察してもらえれば,道が開けるかもしれません。

4Gamer:贋作は,ポーンを通じてほかのプレイヤーにプレゼントすることもできますよね。

伊津野氏:「Dragon's Dogma」は人と一緒にプレイするゲームではないですけど,ポーンの貸し借りや,それを通じたアイテム交換とか,絶対に友達と話をしたくなるゲームだと思っています。
 怒られるかもしれないのでお勧めはしないですけど,友達に,「刹那の飛石」の贋作とかをプレゼントしたら,楽しいことになると思います(笑)。

4Gamer:本物なら,貴重なアイテムだからもらうと嬉しいですけど……。

伊津野氏:刹那の飛石は,グランソレンか戻りの礎のある場所にワープできるアイテムですが,贋作にはワープする効果はないんです。
 刹那の飛石って,死にそうになって脱出するための“とっておき”として持っている人もいると思います。窮地に立たされて1個だけ持っている刹那の飛石を使って,それがたまたま贋作だったら,空中に投げてもポトッて落ちるだけなんですよ。そのときの感情の掻き立てられっぷりを想像したら楽しくなって,わざわざ贋作のシステムを作ったんです。

4Gamer:そういう経緯で生まれたものなんですか(笑)。

伊津野氏:意地悪な制作者だと思っていただいてもけっこうです(笑)。
 ただ,贋作という名前ではありますが,基本はコピー能力なんです。それなりにゴールドが必要になりますが,一部のアイテムを除けば本物が2つになりますから,クズ物屋でコピーすれば,アイテムを自分の手元に残したまま,アイテムを見つけられなくて困っている友だちにプレゼントすることもできるんですね。
 ちなみに,贋作はアイテムの重さが本物と違うといった特徴があるので,注意深く見れば判別できるようになっています。



投稿数が5万件を突破した「ポーンコミュニティ」の取り組み。“応援”すれば次回作も実現する?


4Gamer:ゲームで撮影したスクリーンショットの投稿やポーン情報の共有を行える公式コミュニティサイト「Pawn Community」(ポーンコミュニティ)における,プレイヤーの利用状況はどうなっているのでしょうか。


伊津野氏:もともとポーンコミュニティは,投稿されたスクリーンショットからポーンの検索ができるようにして,ポーンを雇ってもらうための広告の意味合いで作ったものなんです。
 日本のユーザーからの投稿が一番多いのですが,おかげ様で,投稿数が3万件※を超える盛況ぶりです。Webブラウザで見られる「THE GRAN SOREN TIMES」(グランソレンタイムズ)という情報誌を毎日発行していますが,面白いスクリーンショットも多く寄せられていて,見ているだけでもけっこう楽しいです。バックナンバーも見られるので,ぜひアクセスしていただきたいですね。

※7月7日現在,投稿数は5万件を突破している。


4Gamer:私も投稿しているのですが,グランソレンタイムズに載るためのポイントはありますか? なかなか掲載されないのですが……。


伊津野氏:面白いスクリーンショットについては,いい写真を撮らないとなかなか載らないですが,やはり地道に投稿を続けることが大事だと思います。僕も,Vol.19で「Please Use My Pawn」に初めて載ったんですよ(笑)。

4Gamer:スクリーンショットを投稿すると,ポーンのキャラクター名をはじめ,レベルや装備スキルまで自動で反映されるのには驚きました。

伊津野氏:そこはすごく頑張りました(笑)。そういったパラメータはすべて,スクリーンショットを撮影した時点で,JPGファイルに組み込まれるんです。ポーンコミュニティでは,投稿されたスクリーンショットからデータを抽出して表示させる仕組みになってます。
 ちなみに「Please Use My Pawn」の枠はPS3とXbox 360で半分ずつなので,Xbox 360版のほうが掲載される可能性が高いと思います。ハードの仕様上,ゲームのメニューから直接投稿できるのはPS3版だけですが,Xbox 360もFacebookでログインすれば簡単に投稿ができるので,ぜひ投稿してほしいです。

4Gamer:ちなみに,ポーンコミュニティに投稿する以外に,自分のポーンを借りてもらえるコツはあるのでしょうか。


伊津野氏:プレイしている方はご存じだと思いますが,ゲーム内のポーン検索で表示されるのは最大100件ですよね。あの100件の順番というのは,更新時刻の新着順なんですよ。いわゆる掲示板のスレッドで,書き込み順に表示されるイメージに近いです。
 つまり,宿屋に泊まる頻度が多ければ,検索に引っかかりやすくなるんです。アッサラームの好感度がかなり上がってしまうかもしれませんが(笑)。

4Gamer:それは気を付けたほうがいいですね(笑)。

伊津野氏:更新をしないとその100件にすら入らなくなってしまいますから,放置してもポーンを貸したお返しがたくさん溜まっているようなことはないんですね。要は,やる気があって継続して遊んでくれている人ほど上にいく仕組みなんです。
 あまり遊ぶ時間がないときでも,宿屋に泊まって更新だけでもしておくのがお勧めです。あとは,遊んでいる人が多い時間に更新するのがコツかもしれません。



4Gamer:「Dragon's Dogma」は,全世界での出荷本数が100万本を超えました。新規のオリジナルタイトルで達成したこの数字について,どのような手応えを感じていますか?

伊津野氏:国内に関しては,予想以上の反響をいただきましたし,もっともっと伸ばしていきたいと思ってます。僕の作ったゲームの中で,一番売れたタイトルかもしれません(笑)。
 僕自身,“次”を作りたい気持ちはもちろんありますし,ユーザーの皆さんの応援があれば作れると思いますので,末永く応援をしていただければありがたいです。

4Gamer:それでは最後に,読者に向けてメッセージをお願いいたします。

伊津野氏:もうクリアされた方も多いと思いますが,「Dragon's Dogma」では,まだまだ遊べる要素を用意しています。いったん休止していただいてもかまいませんので,しばらくソフトを手元に置いておいたほうがいいと思います。
 ゲームを楽しみたい気持ちがあるなら,存分に楽しめることを約束しますので,まだプレイしていない方は,ぜひ手に取っていただきたいです。踏ん切りがつかないのであれば,Twitterなどで「Dragon's Dogma」のハッシュタグ(#dragonsdogma)などで検索してもらえれば,ユーザーさん達がどのように楽しんでいて,いかに時間泥棒なゲームかをうかがえると思います。
 グランソレンタイムズを見ていただければ分かりますが,レベルが20~30台でプレイ真っ最中のキャラクターも多いので,ネットワークの盛り上がりもまだまだ続くはずです。また,オンラインの要素も独特なので,今から始めても遅いということはありません。ぜひプレイしてみてください! よろしくお願いします。

4Gamer:ありがとうございました。



 今回,伊津野氏に話を聞かせてもらったように,実は「Dragon's Dogma」の根幹となる要素はポーンで,そこにハイファンタジーやオープンワールドが加わり完成したものだ。本作をプレイしている人なら分かると思うが,それらの要素が融合したことで,アクションRPGの新たな扉を開いた作品になったといっても過言ではないだろう。
 子供の頃,ファンタジー小説を読みふけり,冒険を夢見ていた人なら,間違いなく「Dragon's Dogma」の世界を楽しめるはずだ。続編の制作にも期待したいところである。

 なお,本作のプロデューサーである小林裕幸氏は,6月30日/7月1日に開催されたイベント「CAPCOM SUMMER JAM~カプコンサマージャム~」の「バイオハザード6」ステージイベントで,夏に「Dragon's Dogma」で何かしらの展開を予定しているとコメントしていたので,まだまだ勢いは続きそうだ。

 最後に,伊津野氏に教えてもらった,ゲームクリア後に開放される“2周目”の要素をいくつか,本稿の締めとしてお伝えしておこう。

 ゲームをクリアすると,クエスト状況を除いたデータを引き継いだ状態で,最初からゲームを始められる。この際,覚者とメインポーンを再エディットすることも可能だ。
 2周目では,「戻りの礎」を領都の「クズ物屋」で入手可能になり,フィールド上に10個まで設置できるようになる。これによって移動が格段に楽になり,「戻りの礎」を置く場所を工夫すれば,護衛クエストの達成も容易になるわけだ。
 また,カサディス内の南東にある星降り浜には特別なリムが設置され,ウルドラゴンといつでも戦えるようになる。


(CAP)
伊津野氏がお勧めする「戻りの礎」設置場所の一つが,海風の街道(呪い師の森の裏口から出たところ)だ。カサディス,宿営地,呪い師の森という3か所へのアクセスが容易になり,設置数を節約できる。

(CAP)
「会心の矢」は,1本30万Gというとてつもなく高価(※1周目からも使用が可能)だが,矢が当たれば,ウルドラゴンの30か所の心臓のうち1か所を一撃で破壊でき,それ以外の敵は(あの敵ですら),矢が当たればすべて一撃で倒せるという強力なアイテムだ。なお会心の矢は,使った瞬間にセーブされ,チェックポイントからやり直しても復活しないのでご注意を

 ネタバレを避けるためぼやかしておくが,本作は伊津野氏が語ったように“不親切”な世界になっていることもあってか,プレイヤーが気が付かないと見逃してしまうイベントもけっこう存在する。思いがけないイベントに出会えることもあるので,ゲームをクリアしたという人も,2周目に挑戦してみてはいかがだろうか。



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※この記事は、4Gamer.netより提供された情報をもとに、テレビ朝日が改変・編集し掲載しています。元記事はこちら

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