[E3 2012]「SCEといえばSOUL SACRIFICE」と言わせたい。PS Vita用新作タイトルに挑戦する稲船敬二氏へのインタビューを掲載

  • 更新日:2012年6月7日

 ソニー・コンピュータエンタテインメントより今冬に発売が予定されているPS Vita用タイトル「SOUL SACRIFICE」は、あの稲船敬二氏が手掛けるタイトルとして注目を集めるアクションゲームだ。
 自分の体や他人の体を“犠牲”にして強力な魔法を放つなど、独創的なゲームシステムや世界観でも話題になった本作だが、4Gamerでは、そんな本作の“コンセプト”を生み出した稲船氏にインタビューする機会を得た。非常に短い時間でのインタビューではあったが、稲船氏がSOUL SACRIFICEで目指すところはどこにあるのか、何がやりたいのかなど、いろいろな話を聞いてみた。



4Gamer:「SOUL SACRIFICE」は今回のE3では一般公開されていないようですが、稲船さんがここにいらっしゃるということは、海外展開が決まったということでしょうか。以前の発表会では、「海外で展開したい」とおっしゃっていましたが。

稲船敬二氏(以下、稲船氏):ええ。タイトルの発表自体はE3前にさせていただいていた本作ですが、おかげさまで無事に海外での発売が決定しました。

4Gamer:反響はいかがでしょう。

稲船氏:いただいている意見のほとんどがポジティブな内容ですよ。海外でも「稲船作品をやってみたい」「SOUL SACRIFICEが気になっている」という意見が多くて。正直言うと、ホっとしているところです。

4Gamer:というと、稲船さんは不安に思っていたんですか?

稲船氏:どんなゲームを出すときでも、やっぱり不安になるんですよ。でも今回、現地(海外)で反響を聞く限りでは、これは「頑張ればいけそう」に思えたので、本当に良かったなと。

4Gamer:日本で発表されてからは少し時間が経ちましたが、国内での反響はどう受け止めたんですか?


稲船氏:実を言うと、日本の反響にはもっと驚いています。というのも、日本で発表をさせてもらった後、絶対にケチョンケチョンに言われると思っていたんです。
 ただ、否定的な声って大きく聞こえがちなものですよね。だから僕の感覚では、「2割の人が良いっていってくれるなら悪くない反響、もし5割りが良いと思うなら、それは大成功だ」と考えていまして。9割の人が良いというようなタイトルは、何を出しても褒めてくれるような、本当に好きな人しか集まっていないから、逆にダメなんですけど。
 だからウチのスタッフには、否定的な声が多くても「気にするなよ」と事前に言っていたんです。

4Gamer:実際、良いという意見は何割あったんですか?

稲船氏:それが、実に5割以上の人がポジティブな意見をくれたんですよ。「稲船、なかなかやるじゃん?」って(笑)。それと、発表前は「モンスターハンター」や「DARK SOULS」と似たようなゲームじゃないのかと言われていましたが、今はもう、そういう声はほとんど聞かなくなりました。SOUL SACRIFICEが従来の作品とはまったくコンセプトの違うゲームだと、皆さんにお伝えできている感じています。

4Gamer:国内外を問わず好評で、稲船さんも一安心だと。

稲船氏:ええ、ファーストインプレッションは満点を付けられると思います。……でも、それはつまり「ハードルが上がった」ということでもあるわけですよ。今の期待値となると、もはや普通のゲームを作るぐらいでは怒られてしまいます。期待してくれている人を満足させられるようなゲームにしようと、スタッフ全員で活を入れて頑張っているところです。

4Gamer:期待している皆さんは、早く実際に遊んでみたい、そうでなくとも、動いているところをじっくり見たいと思っているのではないでしょうか。そういった機会はまだしばらくないんですか?

稲船氏:いつとは断言できませんが、そう遠くないうちに触れる機会を作りますよ。よく「稲船は海外市場ばかりを見ている」なんて言われますけど、ちゃんと日本だって見ていますから。ぜひ楽しみにしていてください。


日記を追体験して「得たもの」が主人公に影響する?



4Gamer:SOUL SACRIFICEってずいぶんグロテスクな雰囲気になっていますが、あれは稲船さんの好みでデザインされているんですか?



稲船氏:別にグロテスクにしてほしいという指示を出しているわけではないですよ。

4Gamer:では、コンセプトに合わせて作ったところ、結果的にこういったデザインになったという感じでしょうか。


稲船氏:そうですね。例えばモンスターにしても、欲望に負けた人間の成れの果てというコンセプトがあるので、それがスラっとした格好いい外見になるわけがありません。欲望にまみれた醜い身体になってしまうはずですよね。魔法にしてもそうです。自分を犠牲にするほどの魔法が、小奇麗になるはずはないと思うんですよ。

4Gamer:自分を犠牲にする魔法というのは、ゲーム中ではどういった表現になっているのでしょう。魔法によっては、使った後に身体の一部がなくなってしまうわけですよね。

稲船氏:そこは、SOUL SACRIFICEで起こる出来事はあくまで「日記の追体験」ですから。身体の一部がなくなろうが、死んでしまおうが、主人公とは別の人物の物語なので、本当に主人公が死んでしまうわけではないんですよ。



4Gamer:なるほど。そういえば、主人公は本を読んでいる奴隷というストーリーでしたね。

稲船氏:ただ、その追体験の中で「一体何を得られたか」ということ自体は、主人公に影響を与えていきます。本を読み続けてさまざまな体験をした結果、主人公が最終的にどうなってしまうのか。奴隷という立場から解放されるのか、されないのか。それは、ぜひゲームをプレイして確かめてほしいですね。

4Gamer:と言われると、マルチエンディングなのかと勘繰ってしまうのですが。

稲船氏:それはまだ秘密ですよ。そうかもしれないし、違うかもしれないし、それともまったく新しい何かかもしれません(笑)。


「SCEといえばSOUL SACRIFICE」と言われる作品にしたい



4Gamer:稲船さんは、SOUL SACRIFICEがどこまでヒットすれば成功だとお考えですか? 稲船さんというと、海外市場を強く意識されているイメージですが。


稲船氏:どれだけ売れるかというよりは、PS Vita本体の売り上げを牽引できれば成功だと思いますよ。SOUL SACRIFICEは、ファーストパーティ製タイトルとして作らせていただいているので、本体の売り上げを牽引するのが使命だとも思いますし。
 個人的な目標としては、PS Vitaユーザーの5割が遊んでくれるようなヒットを目標にしたいかな。

4Gamer:……サラっとおっしゃいましたが、5割ってとんでもない数値ですよね。

稲船氏:実は「5割」というのは、あのモンスターハンターが実現した数字なんですよ。別にモンハンを敵視しているとか、そういう話ではないですけど、ゲームを作る人間として目標にしたい作品ですよね。さすがに成熟した市場、例えば現在のPSPで5割を出そうと思ってもそれは無理ですが、伸びてる最中のPS Vitaであれば、決して不可能ではないと思うんです。

4Gamer:とはいえ、安定した販売数の出るシリーズものではなく、完全新規のタイトルでハードを牽引するとなると、それってやっぱり凄く難しいですよね。稲船さんは、新規タイトルでハードを牽引することを目指すにあたって、SOUL SACRIFICEに何が必要だとお考えですか?

稲船氏:それはシンプルで、「PS Vitaでしかできない」という感覚を作り出すことですよ。例えばモンスターハンターの例で言えば、あの作品がPlayStation 2で出てた頃は、今のようなヒット作ではありませんでしたよね。
 でもPSPで発売され、マルチプレイの魅力がモンスターハンターを通じて多くの人に伝わった結果、今では数百万本売れるようなタイトルに成長しているわけです。
 つまり、モンスターハンターだって、決して最初から売れることが分かっていて、ハードを牽引したようなタイトルではないんですよ。

4Gamer:そういわれると、確かにそうですね。

稲船氏:逆に言えば、最初から数十万本を見込んでいるようなシリーズものでは、その域には到達できません。そのハードならではのタイトルを新たに生み出せなければ、ハードを大きく牽引することなんて適いませんからね。
 僕は、SOUL SACRIFICEという作品を「SCEといえばSOUL SACRIFICEだよね」「PS VitaといえばSACRIFICEだよね」と、そう言ってもらえる作品にしたいんです。

4Gamer:大きくでましたね。

稲船氏:また「稲船がでかい口を叩いている」と思われるかもしれませんが、ゲームクリエイターである以上、上を目指すしかないですから。
 今回のE3だって、日本のクリエイターは、カンファレンスなんかで「海外は凄いな!」って作品を見せ付けられたわけですよ。でも、だからといって諦めるわけにはいかないんです。もっと面白い作品を、もっと良い作品を作るんだって思わなきゃ。相手は開発費や時間を掛けているだなんて、言い訳している場合じゃない。だから大きな口を叩くのは、僕のゲームクリエイターとしての責任なんです。

4Gamer:夢を見せていかなければならないと。
 海外市場は日本と比べると、携帯ゲーム機よりも据え置き機が主流となっている傾向がありますよね。そこであえて携帯ゲーム機向けに「海外市場を視野にいれたタイトル」を出すことに、勝算などはあるんですか?


稲船氏:勝算というより、僕は売れているものに乗っかるのが嫌いなんですよ。海外市場で携帯ゲーム機に勢いがないことは、僕もちゃんと理解しています。でも、だからこそ挑戦したいんです。
 だって、今の状況を覆すことができて、海外でも携帯ゲーム機で遊ぶのが当たり前って環境を実現できれば、それってめちゃめちゃ気持ちいいじゃないですか。誰も携帯ゲーム機をヒットさせていない市場で「稲船すごい!」と言わせてみたいですよね。

4Gamer:なんといいますか、稲船さんは、とにかく困難な道を進もうとしますね。

稲船氏:そうですね。難しいことは分かってるんです。でも、だからこそやりたい。大企業をやめ、0から始めてなお成功するなんて難しいに決まっていますが、それでも僕は辞めて、挑戦してきたんですから。SOUL SACRIFICEだって同じで、ここでもまた挑戦しますよ。

4Gamer:稲船さんの熱意が込められた本作がプレイできる日が楽しみです。では最後に、SOUL SACRIFICEに期待する読者の皆さんに向けて、なにかメッセージをお願いします。

稲船氏:そうですね。ここまでも相当早いスピードで開発を進めてきましたが、この速度を落とさず、とにかく少しでも早く皆さんにゲームをお届けしたい/お見せしたい気持ちでいっぱいです。

4Gamer:実際に開発がスタートしてからはどのくらいなんですか?

稲船氏:ちょうど1年ぐらいですね。もちろん、まだまだ完成度を高めていきますが、1年でここまでのものを作り上げた点は、僕自身やチームのみんなを褒めてもいいのかなとは思っています。
 それと、今の稲船はダメになったとは言われたくない。辞めたけど良いゲームを作ったんだと思われたいので、期待に応えられるよう、日々努力していきます。
 結果的に失敗したら、その時は責めてもらってもかまいません。でもちゃんと良いものができたら、皆さんに遊んでみてほしいです。完成をお待ちください!

4Gamer:ありがとうございました。

 相変わらずのパワフルな口調で、自身のゲームの魅力を熱っぽく語ってくれた稲船氏。常に「コンセプトが大事!」だと言って憚らない同氏だが、SOUL SACRIFICEは、そんな氏の言葉を証明するような、非常にコンセプトに優れた――もっと言えば“コンセプトが魅力的な”――作品と言える。
 稲船氏によれば、日本で触れる機会も遠くないうちに用意する予定とのことなので、そちらの続報にも期待したいところだ。


※画面はすべて開発中のものです


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※この記事は、4Gamer.netより提供された情報をもとに、テレビ朝日が改変・編集し掲載しています。元記事はこちら


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