グリーは何を考え、何を目指すのか。ソーシャルゲームの未来、そして議論の渦中にある規制について聞いてみた

  • 更新日:2012年6月5日

 3000億円を超えるとも言われるソーシャルゲーム市場。
 ネット業界やゲーム業界からの参入に止まらず、さまざまなコンテンツ企業の参入が相次ぎ、そのタイトル数は4000以上にものぼる。いまや従来のゲーム業界をも凌がんとする存在へと成長したソーシャルゲーム業界だが、個人の趣味で始まったソーシャル・ネットワーキング・サービスが、そんな業界の最大手として君臨している。グリーである。
 売上高1181億円、営業利益637億円、そして最終利益が前年同期比2.8倍の356億円(2012年第3四半期累計)。驚異的としか言いようのない規模とスピードで成長を遂げている同社(およびソーシャルゲーム業界)だが、一方で、いきすぎたマネタイズに対する批判や法律上の問題、青少年への悪影響など、さまざまな問題も以前より指摘されている。


 そんななか、グリーの急成長の一因を担っていた「コンプリートガチャ」の仕組みが景品表示法違反に抵触し、これが規制の対象になるという報道が新聞各社からなされた。そしてその翌週、各紙の報道を後追いする形で、消費者庁が正式に「違法との見解」をコメント。7月からコンプリートガチャが規制の対象になる旨が発表され、業界に激震が走った。急成長したがゆえのさまざまな軋轢/問題が、ここに来て噴出しはじめたのだ。果たしてソーシャルゲームは、将来性豊かな新しいビジネスなのか、それとも――。

 そうした状況のなかで、4Gamerでは、ソーシャルゲーム業界の一角であるグリーに直接インタビューする機会を得た。
 実を言うと、このインタビューは、もともとは6月末に刊行予定の「2012 オンラインゲーム白書」に併せた企画として、以前から発行元のメディアクリエイトと共同で進めていたもの。しかし、コンプガチャにまつわる報道を受けて、取材の方向性を大きく変更することになった。
 今回の騒動をキッカケに、ソーシャルゲーム業界、ひいてはゲーム業界がどういう方向に向かっていくのか。当のグリーが一連の問題/指摘をどう受けとめていて、何をしようとしているのか。……いや、そもそもグリーは何を目指している会社で、どんなことを考えているのか。それらを一度、真正面から聞いてみたいと思ったからである。

 近年、さまざなサービスやデバイスと融合していきながら、劇的な変化を遂げつつあるゲーム産業。そんななかにあって、ソーシャルゲームとはどのようなポジションを担い、どんなニーズを満たす分野なのだろうか。本稿では、グリーでゲーム部門を指揮する吉田大成氏にいろいろな質問をぶつけながら、グリーが見ているもの、そして今後のゲーム業界のあり方を探ってみた。



吉田大成(よしだたいせい):グリー執行役員 メディア事業部長。株式会社ヤフーを経て、2006年にグリーに入社。ソーシャルゲーム事業、GREE Platform事業の責任者。グローバル各拠点の立ち上げやマネージメント業務に携わっている。


4Gamer:本日はよろしくお願いします。今回は、ソーシャルゲームの将来性や可能性についての展望と、現在、問題になっているさまざまな課題、それぞれについてお話を伺えればと思います。

吉田氏:よろしくお願いします。

4Gamer:まずは……、凄く基本的なところからで申し訳ないのですが、そもそもソーシャルゲームがここまでのブームとなった要因について、当事者であるグリーさんがどう自己分析しているのかからお聞かせ願えますか。

吉田氏:まず大枠の部分でいえば、やはりソーシャルゲームの登場と拡大によって、いわゆる“ゲーム人口の裾野が広がった”という事実はあると思っています。日本のソーシャルゲームは、携帯電話という分野で最初の発展があったわけですけれど、誰もが所持している携帯電話というデバイスで、かつまずは無料で(その場で)すぐに遊べるという環境は、決定的な要因の一つだったと思います。とにかく「入りやすかった」のが大きいですよね。

4Gamer:ソーシャル要素についてはどういう認識をお持ちですか。

吉田氏:弊社のサービスの広がり方みたいなところでいうと、やっぱり友達が遊んでいて、その友達からのレコメンドが来て遊び始めるというお客さんが多いと思います。一人遊びじゃない部分、ゲーム+コミュニケーションという部分があるおかげで、普段はゲームを遊ばないユーザーさんにも届いているところはあるんじゃないかと。

4Gamer:ソーシャルゲームがなぜここまでのブームになったのかの一因として、フィーチャーフォン時代によく言われていたのが、いわゆる課金障壁の低さでしたよね。

吉田氏:ええ、そうですね。

4Gamer:ソーシャルゲームは、これまでゲームをあまり遊んでいなかったユーザーさんが中心のビジネスで、だから課金システムの簡便さはとても大切でした。キャリア決済などの環境が整備されていない段階のスマートフォン市場で、フィーチャーフォンと同じ簡便さ、そして収益性が確保できるのかというのは、けっこう疑問視されていたと思うんです。

吉田氏:ええ。ただそこは、弊社の田中(田中良和:グリー代表取締役社長)が「これからはスマートフォンの時代だから、フィーチャーフォンのビジネスは無くなる前提で考えるべき」ということを社内で強く言っていて。とくに2010年末からは全社体制で本格的にスマートフォンへの移行を押し進めていました。

4Gamer:正直に言ってしまうと、グリーさんをはじめとしたソーシャルゲーム業界が、これほどスムーズにスマートフォンへの移行を果たすとは思っていませんでした。成功の要因というか、結局、キャリア決済のありなしなどがあまり関係なかったように見えるのはなぜなんでしょうか。

吉田氏:キャリア決済のありなしがビジネスにどう影響するのかというのは、僕らも当初はかなり心配していた部分でした。ただ、スマートフォン版のサービスを展開していた当初――それこそ、カード決済やWebMoney決済という手段しかなかったとき――から、ユーザーさんはちゃんと我々のサービスに対してお金を払ってくれていたんです。要は、自分達が使いたいと思うサービスにはユーザーさんはきちんと対価を払っていただけるんだということが、スマートフォンに移行する過程でハッキリと見えたんです。

4Gamer:もともとソーシャルゲームというと、簡単な内容で低年齢向けのゲームというイメージがありましたが、カード決済などというのは大人でなければ使えない手段ですよね。スマートフォンに移行する過程で、年齢層の変化みたいなものはあったんですか?

吉田氏:年齢層に大きな変化は見られないですね。元々グリーは20~40代を中心としたサービスなんです。僕らがソーシャルゲームに取り組み始めた当初、ユーザー数は100~200万人という世界で、結果として、アーリーアダプターと呼ばれるようないわゆるアンテナ感度の高いユーザーさんが多かったのは確かだと思います。しかし、会員数が1000万、2000万という規模になっていくにつれて、ユーザーさんも幅広い年齢層にまたがるようになりました。だから、とくにスマートフォンに力を入れてから前のお客さんがいなくなったみたいなことはなくて、それ以前から純粋にサービスの規模の拡大と並行して、幅広い層にも浸透していったと認識しています。

4Gamer:ソーシャルゲーム市場の成長過程で一つ疑問だったのは、スマートフォンは当初、やはり男性中心、もっと言えばその中でも「デジモノ好き」を中心に売れていた商材だったと思うんです。要するに、ちょっとコア寄りなユーザーだったといいますか。その意味からは、ライトなゲームが中心のソーシャルゲームとスマートフォンの相性は良いと思えませんでした。でも、グリーさんのスマートフォン展開がスムーズにいったというのは、要するにそういうユーザーさんをうまく捉えていたということでもありますよね。

吉田氏:はい。ご指摘の通り、去年くらいまでは、スマートフォンのユーザーさんって30代男性の方の割合がもの凄く多かったんです。だからグリーとしても、スマートフォンへの切り替え(移植)を男性受けするものから順次展開していったり、そういうユーザーさんの動向に合わせたプロジェクトの進め方をしていました。

4Gamer:なるほど。

吉田氏:ただ、各キャリアさんが大々的な展開をしていることもあって、ここ1~2年で状況は大きく変わっています。弊社のサービスだけで見ても、女性のユーザーさんの割合は増えてきているんです。

TOKIOが出演するCMなどでお馴染みの「探検ドリランド」。日本最大級の会員数を誇るソーシャルゲームだ


グリーが見据えるプラットフォームの「次の形」


4Gamer:先ほどのお話は、要はまだ「スマートフォン自体がさらに普及していく途上にある」という話だと思うのですが、グリーさんの方では、今後数年間のロードマップをどう考えていますか。

吉田氏:私としては、今年の夏から年末にかけてが、プラットフォームを拡大するうえで重要な時期ではないかと思っています。

4Gamer:それは国内市場において、ですか?

吉田氏:日本においてもそうですし、他の国や地域においてもですね。今後は、現在のソーシャルゲームの発展系……つまり、スマートフォンというデバイスにより適合した「ならでは」のタイトルと、コンソールゲームやMMORPGのようなコア向けのタイトル、それからスマートフォンがより一般的なツールになっていく過程で、カジュアル向けのゲームの波はもう一回あると考えており、その三つの軸で進めています。

4Gamer:それはつまり、全方位に向けて展開するという意味ですか。

吉田氏:平たく言うと、そういうことです。僕らは、プラットフォーマーとしてすべての領域をカバーしていって、ユーザーさんに満足して頂ける環境を作っていきたいと考えています。

4Gamer:業界全体の流れでいうと、最近、ゲーム業界からソーシャルゲーム業界への人材のシフトが目立つようになっていますよね。グリーさんも、人材の確保は目下の急務ではないかと思いますが、ゲーム業界の人材を取り込むことの意義をどのように捉えていますか。

吉田氏:今、コンシューマーゲーム業界やオンラインゲーム業界など、さまざまな分野のクリエイターさん達が「自分達もソーシャルゲームに挑戦しよう!」という機運になっていますよね。私たちが彼らからしっかりと学んで、取り入れていきたいと思っているのは、やはり世界観だとか遊びの設計だとか、そういう部分なんです。もちろんそれだけではなくて、技術的な部分で言えば、ネイティブのクライアントを開発する方法や3Dのノウハウなども、今後の選択肢を増やす意味では必要だと考えています。

4Gamer:競争が激化することによる不安などはないんですか?

吉田氏:僕自身の見解で言えば、いろいろな会社さんが参入することでソーシャルゲーム自体が盛り上がるのは良いことだと思っていますし、グリーの立場からは、プラットフォーマーとしてよりチャレンジのしやすい環境作りを進めていきたいと思っています。不安がないと言ったら嘘になるんですけど、市場全体として見たら、多種多様な作品がある方が絶対に良いですよね。

4Gamer:ちなみにソーシャルゲームも徐々にリッチ化しているように感じられますが、現在の開発コストはどの程度なのでしょう?

吉田氏:それはタイトル/会社さんによってまちまちだと思いますが、弊社のタイトルで言えば、数千万円を超えるものまで出て来ていますよ。

4Gamer:数千万円を超えるタイトルというのは、やはりコア向けの作品になるんですか?

吉田氏:そうですね。スマートフォンの性能もどんどん上がっていますし、3Dをごりごり使ったものなどもラインナップとして取り揃えていくつもりです。とはいっても、いわゆる豪華なグラフィックスがどこまで必要とされているのか、本当にお客さんのニーズに沿ったものなのかという点に関しては、まだちょっと分からないところもありますので、その辺を見極めながらやっていきたいなと。

4Gamer:あと個人的に気になっているのは、競争が激化していくであろうなかで、グリーさんがプラットフォーマーとしての立ち位置をどう維持していくのかというところです。スクウェア・エニックスさんの「拡散性ミリオンアーサー」などが顕著な例だと思うのですが、大手さんほど単独でやっていこうという動きも出てくると思うのですが。

吉田氏:まずプラットフォームの基盤という意味でお話すると、やはり圧倒的なユーザー数をいかに確保するか、ディストリビューション能力をいかに高めるかが大事だと思っています。その点で言うと、僕らは全世界で2億3000万ユーザーを有するプラットフォーム()を運営しています。

※GREE Platform:2011年4月にグリーが買収したOpenFeint Inc社の「OpenFeint」のデータベースと、元々のGREEのプラットフォームを統合させたスマートフォン用のゲームプラットフォーム。2012年3月時点で、2億3400万のユーザーアカウントを誇っている

4Gamer:しかし一方では、単純なアカウント数が本当にプラットフォームとしての武器になるのか、という疑問もあるとは思うのですが。

吉田氏:その点については、単純なアカウント数勝負から「次の時代」へ入っていくと思っています。

4Gamer:「次の時代」とは具体的にどういうものですか?

吉田氏:これまでのゲームプラットフォーム、とくにコンシューマゲームなどでは、ハードウェア=プラットフォームという図式が強かったですよね。けれど、これからのゲームプラットフォームはよりサービス/ソフトウェアの重要度が増す時代に入っていくと思っていて。

4Gamer:ソフトウェアというのは、いわゆるAPIとかSDKの整備みたいなものを指すんでしょうか。

吉田氏:それらの整備ももちろん重要ですが、さらにその先の要素……つまり、サーバーに蓄積された膨大なデータ(顧客動向などのログ)をどう活用していくかが、これからのもっとも大切なポイントだと思っています。

4Gamer:オンラインゲームでは、以前より運営ツールであるとかユーザー管理ツールであるとか、「ゲームのルールよりもむしろバックエンドのシステムが重要だ」と言われていましたが、そういったものですか。

吉田氏:もちろん、そういう部分もありますが、ここで言っているのはもう少し大枠の部分ですね。ユーザーさん同士の関係性であったりだとか、その強弱であったりだとか、そういうデータの蓄積って、長い年月やっていかないと集まらないものですし。さっきのディストリビューション能力の話で言えば、例えば、「探検ドリランド」を遊んでくれているユーザーさんにどうアプローチしようかっていう時に、それが簡単に判断できるツールやシステムがあれば、それは強力ですよね。

4Gamer:最近、IT業界では「これからはビッグデータ()の時代だ」と言われていますが、ゲーム業界も……というか、ゲーム業界はその最前線の一つですよね。

※情報通信分野(とくにインターネット)の発達によって爆発的に増大した莫大なデータを指す。これらを解析/活用することで、さまざまな分野の発展が期待されている。

吉田氏:はい。だから直近で言えば、実は近々、グリー内のソーシャルグラフを活用できるAPIの公開なんかを予定しているんです。これで何ができるかというと、例えば、「探検ドリランド」や「聖戦ケルベロス」で培ったソーシャルグラフをそのまま引き継いだゲームを作ることができます。単純なユーザー数の基盤だけではなくて、開発/ビジネス環境のソリューションをセットで提供していくことで、メーカーさんが単独でやる以上のメリットを提示できると思っています。


日本のソーシャルゲームは海外で結果を出せるのか


4Gamer:ソーシャルゲーム市場が国内で3000億円を突破した今、海外の市場で成功できるかどうかが次の焦点になっていると思うのですが、日本市場と海外市場の違いについてはどう考えているのでしょうか。

吉田氏:正直なところ、グローバル市場に向けて何か特殊なことをやるということはあまり考えていません。むしろ、僕らのやり方がグローバルでもちゃんと通用するな、というのが最近の手応えで。


4Gamer:そういえば、「Zombie Jombie()」が好調な滑り出しというニュースが先日ありましたね。

※グリーの世界展開第1弾となるソーシャルゲーム

吉田氏:ええ。あれは絵柄や世界観こそグローバル市場に合わせたものですが、ゲームそのものの設計や仕組みは、日本で展開しているゲームとほとんど変わりません。中身はHTML5ベースで動いていますし、ゲームの遊び方も日本で人気の「探検ドリランド」に近いんですよ。

4Gamer:はっきり聞いてしまいますが、Zyngaを筆頭とした海外の大手ソーシャルゲーム企業に対しての勝算はどうなんでしょうか。あるいは、世界展開を睨んだ時に、日本企業の有利な点、不利な点をどのように分析しているんですか?

吉田氏:まず僕らとしては、そうしたグローバルの大手企業に対しても「なんら引けを取ってない」と思っています。だから、ゲリラ的な奇襲戦法で挑むというよりは、正面から戦っていこうという感覚ですね。

4Gamer:それもなんだか凄い話ですね。真っ向勝負ですか。

吉田氏:開発チームの規模で言っても、弊社は数百人という規模のエンジニアを抱えていますし、各国の開発スタジオでは、日々新しい作品が開発されています。とくに韓国や中国の開発スタジオには、オンラインゲームを開発してきたノウハウを持った開発者が多数在籍していますから、技術的にもノウハウ的にも、決して見劣りはしないと思っています。

4Gamer:「日本で成功したビジネスモデルは海外で通用しないのではないか」という指摘もあると思うのですが、その点についてはどうですか? 例えば、いわゆる「ガチャ」のような仕組みは、海外では規制の対象になっていたりもしますよね。

吉田氏:ソーシャルゲームにもいろいろなジャンルがありますし、我々としては、なにも一つのビジネスモデルに固執しているつもりはありません。各国で、そこに適したサービスの形は見つけられると思っています。重要なのは、スマートフォンという誰もが手にするプラットフォームで、そこに適したサービスをいかに展開するかの方でしょう。


「コンプリートガチャ」の問題、そしてRMTについて


4Gamer:ガチャの話の流れで、やはり時期が時期だけに聞かないわけにもいかない質問をさせてください。先日各紙で報道された「コンプリートガチャ」(以下、コンプガチャ)についての質問です。

吉田氏:はい。

4Gamer:コンプガチャについては、これまでにいろいろなメディアで取り上げられていますが、先日、消費者庁から正式に「景品表示法違反」との見解が示されたことについては、どのように捉えていますか。

吉田氏:そうですね。こういうのはどこからお話すればいいのか分からないのですが、まず大枠のスタンスとして、いろんな方から沢山のご意見、ご指摘を頂いているなかで、グリーとしては、そういった声に真摯に対応していきたい、いくべきだと思っています。ですから、青少年保護であるとか、消費者庁からの指導であるとかに関していえば、多くのお客様により安全に弊社のサービスを遊んで頂くために、必要な対応なり対策は粛々とやっていくつもりです。

4Gamer:端的に言って、コンプガチャの仕組みが「法律的に問題があるのではないか」という議論は社内であがらなかったんですか?

吉田氏:それは、弊社のコンプライアンスはどうなっているのかというご指摘だと思うのですが、弊社も何か新しいことをやる際には、社内の法務であったり、外部の弁護士事務所などといったところに随時確認を取りながら、今までずっとやってきたところではありまして、決して「何もやってなかった」というわけではありません。

4Gamer:ただ、結果としては「違法という見解」が示されてしまったわけですよね。

吉田氏:はい。弊社としては、消費者庁の見解が出る前に、指摘のあったコンプガチャに関しては5月中に新規リリースの中止と全面撤廃を決定していました。また、その上で今回の決定を重く受け止めて、プラットフォーム事業者として、SAPさん向けにガイドラインを設けて、自主的な対応の強化を図っていくつもりです。

4Gamer:見解が出る前に決めていたとおっしゃいますが、結果としては消費者庁の動向が情報として流れ出してから、それを受けての決定のようにしか見えませんでしたし、多くのユーザーさんもそのように思っているのではないでしょうか。そのイメージを払拭するためにも、いつごろから問題を認識しており、いつごろから改善のプロジェクトは動いていたのか、参考までにお教えいただけますでしょうか。

吉田氏:コンプガチャは、社内はもちろん、関係各所と連絡をとりながら違法性はないという認識で提供してきたサービスです。しかし、4月24日に消費者庁長官の会見があり、判断基準の見直しがあるかもしれないということが分かったため、社内や6社とも協議した上で、最終的に終了することを決定しました。

4Gamer:ちなみにガイドラインというのは、発表された6社協議によるガイドラインとは別のものですか?

吉田氏:いえ、そのガイドラインです。すでにある程度までは完成していて、今は各社と連絡を取りながら、内容を詰めているところです。

※5月25日にガイドラインの内容は公に公開された

4Gamer:コンプガチャの撤廃や今後の取り組みの発表など、新聞各紙の報道を受けてからの業界の動きは、とても迅速だったと思います。しかし、これは純粋に疑問なのですが、政府から直接“規制”という形で介入が入る前に、業界の自主規制で問題を沈静化させることはできなかったんでしょうか。

吉田氏:ソーシャルゲームの市場が急速に拡大するなかで、弊社も、出来る限りのことはしているつもりです。もちろん、努力が足りないのではないか、脇が甘いのではないかと言うご意見はあると思います。

4Gamer:消費者庁からこのような規制が入るにあたって、事前に勧告なり連絡というのはなかったんですか?

吉田氏:この場で内容についてお話することはできないのですが、関係各所と連絡は取らせていただいております。

4Gamer:今回の動きで一つ不思議に思えたのは、なぜ「コンプガチャ」に絞って公式の違法見解が示され、規制への流れが、それも急に出来上がったのかというところなんです。そもそも、消費者庁や警察庁が問題視していた部分は景品表示法というより、青少年保護や未成年略取の観点、あるいはRMTやそれにまつわる問題(不正や反社会勢力の関与など)がメインだったと認識していたのですが。

吉田氏:それらの点については弊社がコメントできる立場にありません。

4Gamer:個人的には、コンプガチャだけが問題視されるというのも、これはこれで違和感があるんです。RMT問題などへの対処が、この一件で不問になったわけではありませんよね?

吉田氏:その件でも、弊社は関係各所と密に連絡を取らせて頂きながら、より健全なサービスの実現に向けて、さまざまな対策を行っています。実際、直近ではRMT業者への対策を実施/発表しましたし、実効性のある対策として、トレードするためにはIVR認証を必要としたり、友達申請後一定期間はトレード制限をかけたりもしています。

4Gamer:PCオンラインゲーム業界では、よく不正対策として大規模なアカウント停止を行ったりもしていますが、グリーさんの方ではそういったアクションをとられないのですか?

吉田氏:アカウントの停止自体は弊社でも行っています。前回は、3000~4000人規模のものを行っていたかと思います。アイテムのデータの固有IDを紐付けて、不正な取引が行われないように監視できるシステムを構築したり、監視チームを強化して対応に当たらせたり、「やれることはどんどんやっていこう」という姿勢で取り組んではいるつもりです。

4Gamer:より実効性のある対策が必要なのではないのですか。例えばですが、もっと大規模なアカウント停止措置をしたり、トレードという仕組み自体を廃止したり。PCオンラインゲームの例で言えば、そうした措置を強行する事例や、一定以上のレアアイテムは取引できないタイトルも少なくありません。グリーさんは、サービスの規模からいってそのくらいの対処は必要だと思うのですが。

吉田氏:弊社が大規模な対応を実施すると、少なからず混乱を招いてしまう可能性がありますので、関係各所と連携して、必要な対策を慎重に検討していきたいと考えています。

4Gamer:まぁただ、公表される消費者センターへの問い合わせ件数って、何も「ちゃんとした相談」だけではないんですよね。これもまたPCオンラインゲーム業界の事例で申し訳ないのですが、それこそ「退会したいのですが」とか「なんかログインできません」みたいな、ちょっとした問い合わせも含めて「オンラインゲーム絡みの問い合わせ」としてカウントされてしまうことは理解できるので。

吉田氏:ええ。そういうところも少なからずありますね。

※消費者庁に寄せられた携帯向けソーシャルゲームに関する苦情/相談の件数は、2010年では5件だったものが、2011年に58件になったと発表されているほか、国民生活センターによると、コンプガチャを含むオンラインゲーム(こちらはPCオンラインゲームを含む)に関する相談は2009年度が1437件、2010年度が2043件、2011年度が3445件と急増しているという。ちなみに、PCオンラインゲームが社会問題として取り沙汰された時は、月に数百件単位の問い合わせが各地の消費者センターに届いていたこともある


いまだに残る「射幸性」の問題


4Gamer:あの、これはもう、ズバリお聞きしたいのですが、グリーさんは「射幸性」についてはどう考えているんでしょう。ゴールデンウィーク明けの一連の報道や発表は、あくまでコンプガチャに絞った話になっていますが、議論の根本でいえば、結局は「射幸心を煽ることがどこまで許されるのか」につきるかと思うのです。

吉田氏:ええと、ここだけはぜひ誤解しないでいただきたいのですが、我々は、プラットフォーマーとして長期的な視点でビジネスに取り組んでいますし、その意味で「サービスの健全化」というのは、何もお題目というわけではなく、責任ある企業の判断として正しい方向だと思っております。

4Gamer:先ほどのガイドラインの話もそうなのですが、ガイドラインを設けてそれを遵守していくという部分は分かるんです。ただ、具体的な対応策として、どのような取り組みを行うというのが見えないので。

吉田氏:一つには、これは先日発表させて頂きましたサービスがありまして、任意申し込みですが、設定した金額で「注意告知」を出すようにできます。通知が出るデフォルトの設定金額は、15歳以下は5000円で、16歳以上は1万円ですが、最低金額1000円から、以降1000円単位で設定できます。

4Gamer:年齢認証など、ユーザーの本人確認はどうしていくんでしょうか? 

吉田氏:そこは、登録されたユーザー情報で判断することになりますね。

4Gamer:うーん……でも、オンライン上のアカウント登録だと、例えば子供が正直に年齢を入力しているかどうかって分かりませんよね。

吉田氏:そこはおっしゃる通りです。ただ、ここはとても難しい問題で、例えば、親から携帯電話を買い与えられて、キャリアにちゃんと情報が登録されている場合は、弊社からも確認もできるんですが、一方で、そこも親の名義になっていたりして、そうなってしまうと弊社から確認する手立てがないだとか、いろいろと問題というか、一企業の対応には限界もあるのも確かなんですよね。もちろん、だからやらなくてよいって話じゃないですよ。

4Gamer:子供が「大人」を演じることもあるし、その逆のパターンもあります。そして、得てしてそういう「嘘」を付くユーザーが問題を引き起こしたりしがちですよね。こういった部分に対して、何か実効性のある対策はないものなんですか。

吉田氏:仕組みを詳しくは言えないのですが、ある程度までは実装されているフィルタリング機能で引っかかります。また、パトロールチームが365日24時間体制でチェックしながら、随時対処しています。あとは、未成年はコミュニケーションを上下2歳までのユーザーさんだけに制限したりといった、安全性を高めるためのいろんな仕組みを導入しています。

4Gamer:あと、射幸性という意味でいえば、ガチャ自体も規制の対象になるのではないか、という指摘もあります。ガイドラインでは、通常のガチャについての記述ないし制約はあるんですか。

吉田氏:通常のガチャに関する記述は含まれておりません。

4Gamer:ガチャ自体を問題視する声の中には、「レアカードが当たる確率などが不当に操作されているのではないか?」などという疑惑もあるようですが。

吉田氏:出現確率は個々のゲームや場面において「設定」されており、少なくとも当社のゲームでは、不当な人為的操作は行われていません。


結局、何に対して批判されているのか


4Gamer:改めてお聞きしたいのですが、今、違法であるかどうかという話だけではなく、ソーシャルゲーム業界への風当たり自体がとても強くなっているタイミングだと思うんです。これはなぜだと思いますか。

吉田氏:いろいろなご指摘があるのは理解しています。

4Gamer:そうなんでしょうか……。

吉田氏:うーん……。

4Gamer:これまでのゲーム産業自体がそうだったと思うんですが、まったくの新しい市場が急に立ち上がり、それが拡大していくときに、社会との軋轢が生まれていくというのは、ある意味では仕方がないことだとは思うんです。

吉田氏:はい。

4Gamer:けれど、そうした軋轢が表面化したとき、批判の対象になることは、「自浄のための努力をしているのかどうか」につきると思うんですよ。新しい市場/分野で、新しいことに挑戦するときは、当然ですが、法整備などのルールが整っていないケースが少なくありません。どこまでが良くて、どこからが駄目なのかという線引きも曖昧です。そこでどこに線を引くかを、社会は見る。そういう話です。

吉田氏:僕らも、お客様に安心して楽しんでいただくために、日々努力はしているのですが、市場や事業の拡大と、それに伴って発生する、今までには存在しなかったさまざまな問題に対して、よりスピード感を持って取り組む必要があると考えています。

4Gamer:過去のゲーム業界、直近で言えば、PCオンラインゲーム業界もそうでしたが、急激に市場が拡大して、会社の規模も一気に何倍にもなっていって。そのなかで、理路整然とした対策を打っていくことの難しさは理解しているつもりです。その上で、2月の「探検ドリランド」の騒動からコンプガチャの廃止に至るまでの動きを見ていると、やはり「後手に回りすぎじゃないか」という印象は拭えないんですね。

吉田氏:そこについては、厳しいご批判があるのを理解しております。

4Gamer:ただ、それは一方で、「もっとしっかりしてくれ」という声でもあると思うんですよ。

吉田氏:そうですね……。今、ソーシャルゲーム業界にとってとても大事な時期だと思うのですが、僕ら自身がもっと自主的に、前のめりにアクションを起こしていかなきゃいけないってことだと感じています。

4Gamer:そうですね。

吉田氏:繰り返しになってしまうんですが、僕らとしては、やっぱり長くサービスを使ってほしいと思っていますし、そのためには「安全で安心できる環境」というのが必要不可欠だと考えています。先ほども少し触れましたが、責任ある企業として「サービスの健全化」を目指すことは、判断としても“正しいこと”だと思うからです。だから、いろんなご意見を素直に受け止めて、やるべきことはやっていきたい。

4Gamer:スマートフォンが今後のメインプラットフォームの一つになるのは間違いないと思いますし、ソーシャルゲームというものが、そのなかで大きな役割を果たすのも確かだとは思うんです。それだけに……。

吉田氏:はい。ご批判もある種の期待値だと思って、今後の取り組みをしていければと思います。

4Gamer:分かりました。健全化に向けての今後の取り組みを期待しております。
 本日はありがとうございました。

吉田氏:ありがとうございました。



 異なる立場にある人が、さまざまな角度からソーシャルゲームについて議論を行っている。
 ある者はソーシャルゲームを「日本の将来を背負う産業だ」と言い、ある者は企業を名指しして「社会悪だ」と言う。とくに消費者庁から「景品表示法違反」の見解が示されてからは、後者の批判は少しエスカレート気味になっているようにも見える。

 ゲーム業界側からのスタンスで見れば、議論の是非はともあれ、ソーシャルゲームが数少ない成長分野であることは確かだ。ここ1~2年で、ゲームメーカーの多くが本格的にソーシャルゲームへの進出を果たしているし、何かと厳しいニュースばかりが目立ちがちな昨今のゲーム業界に、景気のよい話があることは悪くない。ただし……。

 ソーシャルゲーム市場が、“今ある形のまま拡大していく”ことに対して、業界内であっても少なからぬ懸念を感じている人はいる。ソーシャルゲームはゲームという文化の地位向上に貢献できるのか、ゲーム市場の拡大に貢献できるものなのか、もっと言えば、ソーシャルゲームが導く次のゲーム市場とはどんなものなのか。

 筆者自身もそんな“懸念を感じている”人間の一人である。だからこそ、今回のインタビューを通じて、日頃のさまざまな疑問をグリーへと投げかけてみたわけだが、取材を終えた今もなお、彼らがどこまで“ゲーム”ビジネスを考えているのかが分からない。  なるほど、プラットフォーマーとして「長期的なサービスにした方が正しい」という考え方には賛同できる。ではグリーは、本当に長期的に遊ばれるビジネスを意図したアクションを行っていくだろうか。今現在、実際に見えるアクションは、本当に顧客との長期的な信頼関係を築くに足りているだろうか?

 インタビューの中で、筆者は、ソーシャルゲーム業界の「自浄のための努力」について言及した。相手からのリップサービスを求めていたわけではなく、4Gamerという媒体は、かつてオンラインゲームが直面した大きな問題を見てきているからだ。企業が企業である以上、利益を求めることは至極当然の目的となる。その中で割かれることになる社会への姿勢は、企業がユーザーの便益や幸せをどこまで客観的に考えられるか、という話でもあり、そうしたスタンスを見せないままで「顧客との長期的な関係」は築けないと、経験的にも思えるのである。

 今回の騒動を経て、ソーシャルゲーム業界は「健全化」に向けて大きな舵を切った。今後もプラットフォーマーとして更なるリーダーシップを発揮し、顧客と真の信頼関係を築ける企業に成長する――それが、今後のグリーという企業に求められているシナリオだろう。今後の動きに注目していきたい。

――2012年5月18日収録


(C)GREE, Inc.



※この記事は、4Gamer.netより提供された情報をもとに、テレビ朝日が改変・編集し掲載しています。元記事はこちら


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