「アーシャのアトリエ」でニオを演じる声優・伊瀬茉莉也さんってどんな人? 自身はあくまでも柔軟にキャラクターを演じる役者としての考え方を聞いた
- 更新日:2012年6月1日
テレビアニメ「TIGER & BUNNY」のドラゴンキッドや、「Yes! プリキュア5」の春日野うらら、OVA「機動戦士ガンダムUC」のロニ・ガーベイなど、人気作品の主要キャラクターを多数演じ、まさに今をときめく声優、伊瀬茉莉也さん。
そんな伊瀬さんが、2012年6月28日にガストより発売予定のPlayStation 3用ソフト「アーシャのアトリエ~黄昏の大地の錬金術士~」(以下、アーシャのアトリエ)に、主人公アーシャの妹ニオ役として出演する。
アーシャのアトリエは、人類がゆるやかに滅びへと向かっていく“黄昏の時代”を舞台に、主人公のアーシャとその妹ニオを中心とした切なげな物語を描く作品だ。3作続いた“アーランド”シリーズの流れを断ち、新たな世界で紡がれるアトリエの物語に、伊瀬さんはどのように関わったのか。
今回は、ニオを演じる際に感じたことや、声優業界に足を踏み入れたきっかけ、そして役者として仕事に取り組む伊瀬さんの気持ちなどを聞いてきた。
声優業界に入ったきっかけはミュージカル
「HUNTER×HUNTER」
4Gamer:本日はよろしくお願いします。
伊瀬さんは声優業界に入られて約7年とのことですが、声優を志したきっかけというのは?
伊瀬茉莉也さん(以下、伊瀬さん):私はもともと、映画監督になりたかったんです。ジブリ作品が今も昔も大好きなんですよ。小学校3年生のときに、「もののけ姫」を見て、映画館に8回見に行くくらい好きになってしまって、そして宮崎 駿監督の弟子になりたいと思ったんです。
4Gamer:でも、小学校3年生で映画監督の弟子になるのは、なかなか難しいですよね。
伊瀬さん:そうなんですよね。それでも、この思いをどうしたらいいのかと、何かしなくちゃと、いてもたってもいられなくなっちゃったんです。そこで、今の自分にできることって何だろうと考えて、やっぱりたくさんの作品、映画、舞台、ミュージカルを見て勉強しようと思いました。それからいろいろな作品を見るようになるのですが、あるとき「HUNTER×HUNTER」という作品に出会ったんです。
4Gamer:それはアニメのですか?
伊瀬さん:アニメを含めて、HUNTER×HUNTERという作品の集合体ですね。それで、中学2年生のときに、声優さんが演じるHUNTER×HUNTERのミュージカルを見に行ったんですけど、それにすごく感銘を受けたんですよ。「声優ってこんなことまでやるのか、すごい!」って。それが、声優を意識したきっかけです。
4Gamer:なるほど。それで学校や養成所を目指すわけですか。
伊瀬さん:いえ、実はそのHUNTER×HUNTERのミュージカルを見たときに、会場で配っていたパンフレットの表紙をめくったらプロデューサーの名前と顔写真が載っていたんです。私は中学生ながらに「プロデューサーって一番エライ人だろう」と考えたんですよ。で、そのままロビーを歩いていたら、なんとその顔写真と同じ人がいるじゃないですか。
4Gamer:ドラマティックな予感がする展開ですね! そこでスカウトされた……とか?
伊瀬さん:いえ、違います(笑)。
私が「はっ!」と思って、そのかたにタタタッと駆け寄り、「将来、アニメの映画監督になりたいと思っている伊瀬茉莉也といいます。夢が叶った暁には、ぜひ協力してください」とお願いしました。
4Gamer:めちゃくちゃアグレッシブな中学生ですね。
伊瀬さん:本当に怖いもの知らずでしたね(笑)。
当然、最初は「あ、そうなんだ」ってあしらわれちゃうんですけど、やっぱりこのミュージカルも、もののけ姫と同じように何回も見に行ったんですよ。そのたびに、その方に話しかけたら「じゃあ、まずは声優をやってみなよ」と言ってくれたんです。「お芝居を勉強するのはすごくいい勉強になるはずだよ」って。そこで、その方の知り合いの声優さんを紹介していただいて、養成所に入ったんです。
4Gamer:なるほど、それで現在に至るわけですか。ちなみに、声優として本格的にお仕事をなされてから、そのプロデューサーの方とご一緒する機会もあったのでは?
伊瀬さん:いえ……。私がちょっとずつ仕事をしているのを見ていてくださっているようなんですけど、なかなかお会いすることができないんです。
4Gamer:でも、HUNTER×HUNTERのミュージカルがきっかけで業界に入られて、今は新しく始まったアニメ、HUNTER×HUNTERのキルア役を伊瀬さんが演じられているわけですよね。そういう意味では、とても不思議で、同時に大切な縁ですよね。
伊瀬さん:本当にありがたいなと思います。お忙しい方で、直接お会いするのは難しいですから、いろいろな役を演じて、どこかで名前だけでも耳にしてもらえたら嬉しいですね。
しっかりものだけど放っておけない
伊瀬茉莉也さんにとってのニオ
4Gamer:では、「アーシャのアトリエ」の収録についても教えてください。
伊瀬さんが今回演じたのは主人公アーシャの妹ニオですね。第一印象はいかがでしたか?
伊瀬さん:パッと見るとお姉ちゃんのアーシャに似たおっとりキャラに見える子ですが、実は結構しっかりものです。「もう、お姉ちゃんたらっ」とかいって姉を引っ張るような、積極的な面もある天真爛漫な女の子ですよ。
4Gamer:公開されているイラストからはとても素朴な印象を受けますよね。
伊瀬さん:現実世界にいてもおかしくないなと思える子です。プレイする方が、一番身近に感じられる、親近感の湧くキャラクターだろうと思います。
4Gamer:本当に可愛らしい印象ですが、物語を進めていく中ではちょっと影のあるセリフもあると聞きました。
伊瀬さん:ニオは初め行方不明になっていて、アーシャの頭に直接語りかけるように物語へと絡んでいきます。行方不明になっていることにも、そうやって頭に直接話しかけられることにも、もちろん理由とか原因がありますから、そういうものが明らかになるうえで、意味深なセリフもありますね。
4Gamer:アーシャの旅の目的がニオを見つけ出すことですもんね。ニオを探して単身旅に出るアーシャですが、妹から見た姉はどんな子ですか?
伊瀬さん:うーん……ちょっとポワポワしているので心配です(笑)。
でも、それは不安ではなくて、姉を思うがゆえの心配ですね。一心同体というとちょっとニュアンスは異なりますけど、二人は一緒にいて初めて安心できる関係なんです。行方不明になったことでニオ自身もすごく不安なんですけど、同時に「お姉ちゃん、心配しているだろうな」と考えていたと思います。
4Gamer:そういう仲の良い姉妹が、ある意味で引き裂かれた状態から始まるというシリアスなシチュエーションは、これまでのアトリエではあまりなかった部分かもしれませんね。せっかくですから、ニオの絡むエピソードについてもう少し詳しく教えてもらえますか?
伊瀬さん:姿形が見えていない状態で「お姉ちゃん」と切なげに訴えるのがニオの第一声になります。そこからニオの登場シーンは増えていって、やがて姉の元に姿も見える状態で現れるようになり、会話もできるようになるんですけど、それでもまだ、心の半分がどこかにとられちゃっているような感じなんです。魂が捕まっている状態というか。
4Gamer:魂が捕まっている……ですか。
伊瀬さん:ええ。最初は夢うつつというか、自分の存在が不確かで、漂っている感じ。そういう状態のところから、アーシャに助けだされて、本来の自分を取り戻していく。そういう過程はきっと楽しんでいただけると思います。
4Gamer:なんだかお話を聞いていると、どうやらニオは単純な妹キャラというわけでもなさそうですね。
伊瀬さん:アーシャのアトリエには「約束」というテーマがあって、それはアーシャとニオの約束でもあるし、作品とプレイヤーの約束でもあるし、そういういろいろな意味の約束が含まれているそうなんです。アーシャの視点から見ると、ニオとのある約束を果たすために冒険を始める。そういう意味では、ニオはアーシャに一番近い存在でありながら、同時に一番遠くにあるゴールでもある。意外と、重要なキャラクターだと思いますよ。
4Gamer:今回、そんなニオを演じてみて、何か共感できる部分はありましたか?
伊瀬さん:私、一人っ子で、ずっと兄弟がほしかったんです。たとえば親戚の子だとか、すごく仲良くなった先輩や後輩に対しては、甘えたいし、世話も焼きたいし……。
4Gamer:姉、妹どっちもやりたいと(笑)。
伊瀬さん:そうです(笑)。なので、ニオのお姉ちゃんに甘えたいという気持ちと、「私がしっかりしなくちゃだめね」といった世話焼きな部分が共存しているというのは、似ているのかもしれませんね。
4Gamer:ニオはアーシャに甘えることもあるんですね。
伊瀬さん:姉の前では妹らしい面も見せますよ。
4Gamer:では、ほかのキャラクターにはどう接しているんですか?
伊瀬さん:「いつも姉がお世話になっております」って(笑)。
4Gamer:よくできた妹じゃないですか。
伊瀬さん:ええ。とても礼儀正しくていい子です。
4Gamer:でも、いい子には意地悪もしたくなりますよね。ぜひニオの「ここがだめだよ」といった弱点も教えてください。
伊瀬さん:え、えっと……。ニオって結構迷子になっちゃうんです。ふらふらっとどこかにいっちゃったり、薬草を探しに危険なところへも平気で入っちゃったりします。実は私自身もすごく方向感覚が弱いタイプなのでちょっと心配です。
4Gamer:でも、伊瀬さんは電子マップとか、現代科学の力を借りれば目的地に辿り着けますからね。
伊瀬さん:いえ……。実はモバイル機器を使いこなせなくて、マップの見かたとかもよくわからないんですよ。
4Gamer:ニオも伊瀬さんも、二人揃って方向音痴だったなんて……!
「機動戦士ガンダムUC」のロニを演じて得たものと
役者としての取り組み方
4Gamer:では今回、ニオを演じられて何か演技や私生活に影響はありましたか?
伊瀬さん:ニオを演じる前にディレクションで、「アニメっぽくせず、リアルなお芝居を心がけてほしい」と言われたんです。でも、私の中ではアニメっぽいとかリアルっぽいという垣根はないので、これはなかなか難しいなと思いましたね。
なので、プレイしている人に「妹がいたらこんな感じかな?」と思ってもらえるように演じたほうがいいと私なりに考えて、声はあまり作らず、地声に近いところで演じました。実はそういうことってあまりないので、ほかの仕事にもつながるいい影響になったと思います。
4Gamer:なるほど。ちなみに、これまでたくさんのキャラクターを演じられてきた中で、自分の精神に大きく影響したなと思うキャラクターというのはいるんでしょうか。
伊瀬さん:「機動戦士ガンダムUC」のエピソード4で、ロニ・ガーベイというキャラクターを演じたんですが、彼女はすごかった。
4Gamer:「これは、私の戦争なんだ!」の彼女ですね。
伊瀬さん:そうです(笑)。
彼女を演じるときは、これまでの私をすべて崩しましたね。
4Gamer:それは、伊瀬さんが積み重ねてきた経験が通用しなかったということでしょうか。
伊瀬さん:そうですね。やっぱり、これまで演じてきたものが積み重なって、自分の中に技術とか知識として蓄積されていますから、最初はそれを利用して演じようとするんです。けれど、そういうものが一切当てにならなかった。うらみつらみって想像はできますけど、本当にうらみをもっている人は、どういう声色でどういう言葉を紡ぐんだろうと、そこに想像が及びませんでした。
4Gamer:OVAの彼女は復讐にとりつかれているようなキャラクター設定でしたよね。
しかし、それをどうやって作っていかれたんですか? 演じてみて、音響監督のディレクションを受けて、というのをひたすら繰り返していくんでしょうか。
伊瀬さん:100本ノックみたいなことをやりました。実際に100本近いテイクをとっているんですが、それだけやっていくとだんだんと訳がわからなくなっていくんです。
4Gamer:セリフがゲシュタルト崩壊するということでしょうか。
伊瀬さん:もっと先までいっちゃいます(笑)。
セリフは何を言っているかわからないし、自分自身がどうなってるのかもわからないし、ここはどこなんだろう、私は今何をしているんだろうって混乱してくるんです。そういう状態のときに出たセリフが、OKだったりするんですよ。音響監督が役者を追い詰めるといいますか、ぎりぎりの状態のときに出たものを「いいね」と。
4Gamer:過酷ですね……。
伊瀬さん:大変でしたね。でも、彼女を演じられたことは私にとって大切な経験になりました。
4Gamer:ところでガンダムUCのロニ、TIGER & BUNNYのドラゴンキッドをはじめ、最近はとてもお忙しそうですけれど、この作品を演じてから急にオファーが増えた、といったような転機はあったんでしょうか。
伊瀬さん:うーん。どの作品にも思い入れがあるので、この作品が転機になったというのはあまりありません。1つ1つの作品を積み重ねて、今に至っています。
4Gamer:個人的に、声優さんってある程度長い期間、たとえば10年続けられて突然わっと花が咲くような方が、ほかの業界と比べて多いイメージがあったんですよ。ですから、何か節目とか転換期があるのかなと思ったのですが。
伊瀬さん:デビューしてすぐに花開く方もいらっしゃいますから、それは人それぞれだと思います。その後、どのように歩んでいくかもその声優さん次第ですしね。
4Gamer:なるほど。それでは、伊瀬さんはどんな声優になろうとしているんでしょう。声優に限ったことではないのですが、自分の未来像をどう捉えているんでしょうか。
伊瀬さん:うーん……。お仕事を充実させたいのはもちろんですけど、いい仕事、いいパフォーマンスをするためにはプライベートが充実してないと、私はだめなんです。アウトプットばかりになると、自分の中身がすっからかんになっちゃう気がして。
4Gamer:自分の中に、ある種の“蓄え”が必要だということですか。
伊瀬さん:そうですね。なので、海外旅行にいってみたり、語学の勉強してみたり、声優とはまったく関係ないかもしれないけど、ダンスを習ってみたりしています。そういうところで得られる出会いはとても貴重なものだし、出会った人達の話を聞いて、「こういう考え方があるんだ」とか「こういう人もいるんだ」という勉強にもなる。それが、芝居にも活かせたりするんです。
オンとオフの切り替えができる柔軟な人間でありたい。仕事だけにガツーンと取り組むのではなく、常に広い視野で物事を見られる人間になりたいなと思いますね。
4Gamer:私生活を基盤に仕事を作っていくんですね。
では、今は自分の描いている理想に近い状態なんですか?
伊瀬さん:事務所も私のワガママをすごく尊重してくれますから、忙しいですけど充実はしています(笑)。
確固たる自分にはこだわらない
心がけるのは柔軟な演技
4Gamer:お仕事に取り組む際は私生活での蓄えを大事にしているとのことですが、声優としてキャラクターを演じることに対して、伊瀬さんがもっている哲学みたいなものはありますか?
伊瀬さん:うーん……。これはちょっと考えてみたんですけど、私には確固たる何かって、ないのかもしれません。
4Gamer:それでは、収録するときにご自身の演じるキャラクターをどう捉えていらっしゃるんでしょうか。
伊瀬さん:キャラクターって、原作でもオリジナルでも、やっぱり見たり読んだりした人の中で生きているもので、受け取った人それぞれのイメージがありますよね。そして、その人の感じたキャラクター像こそが正解だと思うんです。私はその受け手の方々のイメージに、一番近いものを代表して出している。なので、監督であったり、原作者の方であったり、ファンの方が思い描いているイメージを具体化するのに、私は協力するだけ。だから、私自身は柔軟でありたいと思っています。
4Gamer:なるほど。それは主役でも、脇役でも同じように取り組んでいる?
伊瀬さん:私の場合はそうですね。ただ、脇役を振られたときのほうが燃えます。やっぱり、脇役が輝いていないと、主役も活きないと思うんですよ。主役は、そこで輝いている人たちを作品と共に引っ張っていかなければならないというプレッシャーはありますけど、変に気負う必要はないんです。主役をいただいたら、私はラッキーだと思います。
4Gamer:そのプレッシャーに耐えるのは、別の意味で大変な気がしますけれど、伊瀬さんの場合はそうではないということなんですね。
伊瀬さん:おっしゃるとおり、実際は主役も大変なんですけど、脇役は主役を活かしながら自分も味を出さなくちゃいけない。なので、個人的には味のあるキャラクターを出すほうが、センターに立つよりもやっぱり難しいと思います。
4Gamer:それでは今後、こんなお仕事をしていきたいというビジョンはありますか? こういうキャラクターを演じたいとか、それこそ、アニメ監督になりたいとか。
伊瀬さん:真近でお仕事ぶりを見ると、アニメ監督は到底私には無理だなと思っちゃいます(笑)。でも、好きなアニメに声優という職業で関われていることがすごく幸せなので、今は1つでも多くの作品に携わって、私が演じたことによってそのキャラクターが活き活きとし、それがたくさんの人に受け入れてもらえれば、何も言うことはないですね。
4Gamer:今後もしばらくは声優業にひたすら注力されると。
伊瀬さん:そのつもりです。一応、年に2回舞台もやっていて、それも続けていきたいなと思っています。
4Gamer:わかりました。それでは、最後に「アーシャのアトリエ」を楽しみにしている読者に一言お願いします。
伊瀬さん:すごく淡く儚なく綺麗な世界のお話です。皆さんがアーシャと一緒に冒険して、ニオを見つけて救い出してくだされば、きっとハッピーエンドが待っているはずなので、楽しんでください。
4Gamer:本日は、ありがとうございました。
「アーシャのアトリエ~黄昏の大地の錬金術士~」
公式サイト
(C)GUST CO., LTD. 2012
※この記事は、4Gamer.netより提供された情報をもとに、テレビ朝日が改変・編集し掲載しています。元記事はこちら