“友達が少ない”から主役に……? 「アーシャのアトリエ」で主人公アーシャを演じた声優・井上麻里奈さんにインタビュー
- 更新日:2012年6月1日
ガストが2012年6月28日に発売するPS3用ソフト「アーシャのアトリエ~黄昏の大地の錬金術士~」(以下、アーシャのアトリエ)は、これまでのアトリエの流れを断ち、新たな世界でのエピソードを描く作品だ。人類がゆるやかに滅亡へと向かっていく“黄昏の時代”に、主人公アーシャは人里離れたアトリエで作った薬を売りながら暮らしている。
そんなちょっと孤独な少女アーシャを演じるのは声優の井上麻里奈さん。これまでに、アニメ「天元突破グレンラガン」のヨーコ・リットナーや「図書館戦争」の笠原 郁といった女性から、「魔法少女リリカルなのは StrikerS」のエリオ・モンディアルといった少年まで、性別を問わず多数のキャラクターを演じてきた。
今回は、井上さんにアーシャを演じた感想や、声優業界に足を踏み入れたきっかけ、そしてこれまで演じてきたなかで、今も自身の中に印象深く残っている3人のキャラクターについて聞いた。
“しっかり者”と評され、普段はアーシャのようなキャラクターをやることは少ないという井上さんが、主役を演じることになった理由とは。
アーシャ役に抜擢された理由は「友達が少ない」から?
4Gamer:本日はよろしくお願いします。今回は「アーシャのアトリエ」の主人公アーシャを演じられました。パッと見た印象はいかがでしたか?
井上麻里奈さん(以下、井上さん):最初にイラストを見たときは、とても女の子らしく、ぽわぽわっとした柔らかい印象でしたね。「妖精さんみたいだなあ」と思いました(笑)。
4Gamer:実際に演じられても、その印象は変わらずだったんでしょうか。
井上さん:そうですね。台本を読んでみても、おっとりしてて多少天然ボケなところもある“女の子らしい女の子”だったと思います。ただ、アーシャは妹のニオのことが大好きで、ニオに対しての絶対的な愛情と使命感がある子なんです。だからニオのことになると、芯がキュッと強くなる。普段は頼りないんですけど、そういうちょっとかっこいい部分もありました。
4Gamer:そういったアーシャに対して、共感できる部分や逆に違いを感じる部分はありましたか?
井上さん:うーん……私とは、ほぼすべてが違いますね(笑)。さきほど言ったようにアーシャって普段はぽわぽわっとしているんですけど、私はそういう女の子を見ると「大丈夫、私がやるから!」とすぐに手助けしちゃうんですよ。そういう意味で、私にないものばかりを持った女の子だと思います。でも、こういう女の子に対して憧れもありますから、彼女を演じるのは楽しかったです。
4Gamer:ですがそうなると、演じるうえで難しかった部分もあったのでは……。
井上さん:演じるときは、自分の憧れる女の子像をを前面に出せばいいので、難しいというより自分とはまったく違うものになれて楽しいという気持ちの方が強かったです。「とにかく、自分に無いものを出せばいいんでしょう?」と思いながらやりました。
4Gamer:なるほど。
ところで、さきほど妹のニオの話がでましたけれど、姉から見たニオはどんな女の子なんでしょう。
井上さん:アーシャとは対照的に、非常に活発で、とても行動力があります。後先考えずに突っ走っちゃう、アーシャとは違った意味で危うい部分もある女の子でした。見ていると「守ってあげなきゃ!」という気持ちになるような、元気いっぱいの妹です。
4Gamer:ニオとのやりとりで何か記憶に残っていることはありますか?
井上さん:実は初め、アーシャはニオが死んだと思っているんですけど、生きていることが判明するんですよ。なので、いなくなったと思っていたニオとアーシャが言葉を交わすシーンはよく覚えています。ちょっと変わったシチュエーションなんですけどね。
4Gamer:それでは,そんなアーシャやニオを含めて、特に気になった人物がいたら教えてください。
井上さん:個人的には、キースさんという、渋いおじさまのキャラクターが気になりました。アーシャにとっては錬金術のお師匠様なんですが、そのキャラクターとの絡みはとても好きですね。
アーシャの住む大陸に大きな図書館があって、そこに女性の司書さんがいるんです。その方とキースさんの関係がすごくいい感じなんですよ。アーシャは主人公としてそこに絡んでいくわけですが、そのエピソードの収録はとても楽しかったです。
4Gamer:キースと司書さんの関係というと、夫婦とかそういった感じなんですかね。
井上さん:いえ、違うんですよ。司書さんはちょっと訳ありで、あまり感情の無いキャラクターなんです。でも、とある事情でキースさんに従うというか、付き添うことになります。それでいろいろあるんですが……、この先は言いたくても言えない!
4Gamer:では、そこはプレイしてみてからのお楽しみということにしておきます(笑)。ただ、進み方によってはそのイベントが見られないかもしれないんですよね。
井上さん:マルチエンディングですからね。1周クリアすると、特典でキャストのメッセージが聴けるんですが、私はそこでもキースとオディーリアについて話しているので、ぜひ何度もプレイしてほしいなと思います。
4Gamer:わかりました。そのほかに注目してほしいキャラクターはいますか?
井上さん:キャラクター……ではないかもしれませんが、パナっていう、アーシャの飼っている牛ですね。そのパナが「グモー」と鳴いているときの感情が、収録台本には書いてあったんですよ。
4Gamer:「グモー」に込められた感情というと、悲しいとか楽しいとかですかね?
井上さん:「草うめえ!」とか。
(一同笑)
井上さん:ほかにも、けっこう面白いことをいろいろ言っていて、私は台本読みながら笑っちゃったくらい好きなんです。なので、ぜひパナの感情表現にも注目していただきたいなと思います。……ゲームの中に出てくるか分かりませんけどね(笑)。
4Gamer:アトリエってたまにそういう小さなネタが混ざっていますよね。前作でも「錬金少女メルルのうた」という、日曜の朝にアニメで流れるような曲が唐突に出てきたりして。井上さんはこれまでアトリエシリーズをプレイされたことはありますか?
井上さん:名前はもちろん、シリーズが続いていることも知っていたんですけど、プレイしたことはないんです。今回、実際に出演させていただいて「こういう話だったんだ」と思いましたね。
4Gamer:ただ、アーシャのアトリエは今までのシリーズとは雰囲気がちょっと変わっていますね。最初からひとりぼっち、みたいな設定はこれまであまり無かったですし。
井上さん:えっ。ほかの主人公達には、最初からたくさん友だちがいるんですか?
4Gamer:一概には言えませんが、どちらかといえば友だちに囲まれて「きゃぴきゃぴ」みたいな雰囲気から始まることが多いですよ。もちろん途中から仲間も増えます。
井上さん:悲しい! アーシャはずっとひとりぼっちで、今回は友だちを増やしていくゲームなんですよ。……あれ、だから私がアーシャ役に選ばれたんですかね?
4Gamer:……といいますと?
井上さん:“友達が少ない”と言ったら井上麻里奈だろ、といった感じで。
4Gamer:とても旬な話題ですが、それが理由なら、私にもアーシャを演じられるかもしれません。
井上さん:いえ、すみません。そこは、私にやらせてください(笑)。
男の子役への憧れから声優の道へと進んだ大学時代
4Gamer:ところで、井上さんが声優になろうと思ったきっかけとは何だったんでしょうか。
井上さん:もともと、中高生の頃に有志で集まってお芝居をやっていたんです。女子校だったので男の子役を割り振られることもあって、そこで“自分とは違うもの”になれる男の子役の楽しさを知ったんです。高校に入ってからは、男の子役ばっかりやっていたくらい好きになって。
4Gamer:なるほど。学校でのお芝居がきっかけで演技に興味をもたれたと。
井上さん:ええ。私の通っていた学校では、学年ごとに必ずお芝居をやらなければいけなかったんです。その中でも私の学年は活発だったので……振り返ってみると、お芝居漬けの毎日でした。
4Gamer:では、そこからどうして純粋なお芝居の道ではなく、声優を目指すことになったんですか?
井上さん:実は大学からは共学になったんですよ。そうなると、自然と男の子役は男の子が演じるようになりますよね。それでも私は「男の子役をやりたい」という気持ちを捨てきれなかったんです。そこで、お芝居もできて、かつ男の子役もできる声優という職業に行き着きました。元々アニメやマンガも好きでしたから、「もしかして天職かも?」とも思ったくらいなんですよ。
4Gamer:しかし大学在学中に声優としてデビューされていますから、その道を志してから芽が出るまでは随分早かったんですね。
井上さん:最初は「大学に通いつつ、1~2年生はバイトをしてお金を貯めて、3~4年生で声優を目指すための専門学校に通おう」というビジョンを描いていました。でも、今の実力がどのくらいなのかを知っておくことも大事だと思って、試しにオーディションを受けてみたんです。そうしたら、そこでグランプリをいただけたんですよ。
4Gamer:ある意味では想定外のできごとだったわけですか。
井上さん:そうなんですよね。とても嬉しかったんですけど、その頃はまだ「声優になる」という覚悟ができていなかったので、悩みましたね。
4Gamer:目指している道とはいえ、突然のできごとに尻込みしてしまうのは、しっかりとビジョンを描いてから歩き出す井上さんらしいのかもしれません。
井上さん:実は、審査が数回あるオーディションだったので、途中で辞退も考えたんです。でも、本当にありがたいことに、最終オーディションの前にグランプリに選んでいただけて。……言い方は悪いですけど「逃げられない!」と思いましたね(笑)。
4Gamer:ともあれ、お芝居から入られて現在では声優としてお仕事をなさっているわけですが、今は舞台に立たれることは無いんですか?
井上さん:あまり無いです。この前、知り合いに誘われてとある舞台にゲスト出演をしたんですけど、あらためて難しいなと思いました。
4Gamer:声優としての演技と、舞台に立つときの演技は、やっぱり大きく異なりますか?
井上さん:違いますね。まず「覚えなきゃいけない」というのが大きいです。
4Gamer:確かに、アフレコの場合は台本を見ながらですからね。
井上さん:そうなんですよ。あと、私は4~5年くらい舞台に立っていなかったので、とにかく身体が動かないなと思いました。声優はむしろ動いてはいけない職業なので、そことのギャップはとても大きいですね。
4Gamer:では今後は、舞台に立ってお芝居というのは考えていないんでしょうか。
井上さん:舞台に立つことは好きですし、実際に演じればとても楽しいので、取り組みやすい環境があれば積極的にやりたいなとは思います。
4Gamer:そのときには、男の子役も?
井上さん:……合う役があれば(笑)。
4Gamer:ちなみに、声のお仕事でも男の子役を演じるのはやはり楽しいんでしょうか?
井上さん:楽しいです。声優業界に入った当初はやはり女の子役の方が多くて、そのときはひたすら「男の子役をやりたい」と思っていたくらいでした。今は、そういうこだわりもなくなって少し柔軟になりましたけれど、機会があれば男の子役もやっていきたいです。もちろん、今回のアーシャのように、自分とかけ離れた性格の女の子などにも挑戦していけたらいいですね。
井上さんの心に響いた3人のキャラクターとは?
4Gamer:男の子役に憧れて声優になられて以来、井上さんは本当にいろんなキャラクターを演じていますよね。その中で、自分の精神に影響を与えたり、キャリアの上で転機になったようなキャラクターはいますか?
井上さん:うーん……自分の中には3キャラクターくらいいますよ。
まずは「ブルードラゴン」(Xbox 360)のシュウという役。あれはキャラクターというよりも、あの作品に関われたということが大きいですね。オーディションの段階で私は別のキャラクターを受けていたんですが、その役に落ちて、先方から「この役でも受けてみませんか?」と言われたのが主人公のシュウ役だったんです。
4Gamer:「ブルードラゴン」の発売は2006年ですから、井上さんのキャリアの中では比較的初期のお仕事ですよね。
井上さん:ええ。さっきも話したように私は男の子役をやりたくてこの世界に入ったんですけど、シュウのような猪突猛進タイプの男の子を演じるのは非常に苦手だったので、自分には合わないと思っていました。ただ、とても素敵なスタッフさんが揃っている作品だったので、「どんなちょい役でもいいから出たい」とそのときの精一杯でオーディションを受けたら、シュウ役に選んでいただけたんです。
4Gamer:シュウ役に抜擢されるまで、そんな経緯があったんですね。
井上さん:はい。合格したときはもちろん嬉しかったんですけど、一方で「これは自分のやる役ではないんじゃないか?」というギャップに悩まされました。実際、収録でもすごく迷いながら何度もリテイクを繰り返して、ちょっとずつ録らせていただきました。
……思い返してみても、本当に素敵な収録現場でしたね。「井上さんが一番良いものを出せるように私たちは集まったんだから」と現場のスタッフさんたちも言ってくださったので、それにすごく救われて。初めて、アフレコ現場で号泣した作品です。
4Gamer:それは良い話ですね……。
井上さん:それがひとつ、大きな転機ですね。そこで初めて喉を潰す経験をして、「ここまで出したら、私の声はダメになっちゃうんだな」と知ったんです。
4Gamer:初めて自分の限界に挑戦できたキャラクターだったというわけですか。
では、2キャラクター目は?
井上さん:2キャラクター目は、「地球へ…」というアニメで演じたシロエという男の子の役ですね。出番自体はそんなに多くなかったんですが、いろいろな気持ちや想いを背負った、すごく頭の良い男の子でした。
4Gamer:シロエは壮絶な最期を遂げるキャラクターですよね。
井上さん:その子が最終的に、頭がちょっとおかしくなってしまうというエピソードがあるんです。あの役はすごく私の中で不思議な体験で……。今までは、台本を追って、画に合わせて、なんとかキャラクターの感情に近づけて芝居をする、というやり方だったんです。けれど、シロエに関しては、彼の気持ちが自分の中に入ってきて、自然とセリフが出ていったな、と。すごく思い出深いアフレコでした。
4Gamer:それは、アフレコをしている最中に、突然そういう状態になったんですか?
井上さん:突然ですね。正直あまり覚えていないんですけど、すごく不思議な体験で、収録後もしばらくシロエの気持ちが抜けなかった。1週間くらいは、シロエの気持ちが残っていたんじゃないでしょうか。
4Gamer:何かになりきる役者というお仕事ならではのエピソードですね……。それでは、最後の1人は?
井上さん:最後はやっぱりアニメ「天元突破グレンラガン」のヨーコです。
4Gamer:なるほど。グレンラガンを見て井上さんのファンになったという人は多いと思いますよ。
井上さん:ありがとうございます。作品自体は2クール(全27話)と短かったんですが、アフレコ自体は1年くらいかけて、長い期間で徐々に徐々に録っていったんですよ。グレンラガンは作中でも7年のときが経つんですが、若い頃を演じたキャラクターの成長後も演じられる機会ってなかなか無かったので、キャラクターの一生を描いた作品でした。……作品全体が自分にとっても大きい存在なのかもしれません。
4Gamer:ただ、中でもヨーコへの思い入れというのがあるんですよね。
井上さん:もちろんです。収録が始まったときは、私はヨーコの下から「がんばってヨーコを演じよう」と追いかけていたんですが、続けていく中でヨーコと一緒に成長して、作品が終わる頃にようやく「ヨーコの横にいられるな」と思えました。
4Gamer:ヨーコのいるところまでたどり着けたと。
井上さん:彼女を演じられて幸せでしたし、逆にこれから彼女を演じられなくなることに対して、寂しさや悲しさが強く残りましたね。いまだに自分の中にいるキャラクターなので、すごく大切な存在です。
4Gamer:どの作品もあらためて見直したくなりますね。非常に興味深いです。
井上さん:なんだか、真面目な話ですみません(笑)。
収録現場では自分のことよりも周りのこと
井上麻里奈さんの哲学
4Gamer:収録に臨まれるときに「これだけは譲れない」という信念ですとか、キャラクターを演じる際の哲学みたいなものはありますか?
井上さん:うーん……哲学とはちょっと違うかもしれませんが、最近は、私たちの声を扱ってくださるスタッフさんのことまで考えて、演じるようにしています。
4Gamer:と言いますと、具体的には?
井上さん:わかりやすいところで言うと、「このパートはセリフが被って私が別録りになるから、今はマイクをほかの人に譲ろう」とか。そういった、大きなチームワークを考えるようにしているんですよね。
4Gamer:そういうことは、声優さんが自分で考えることなんですか? ディレクションする側が「ちょっとここは抜けて」と指示しそうですけれど。
井上さん:もちろん指示はありますけど、それを言われるだろうというのは、あらかじめ分かるんです。
4Gamer:井上さんはそういう空気を察して、言われる前に動くと。
井上さん:そうですね。演技も精一杯やりますけど、音声を編集してくださる方なども含めての作品作りだなと思っているので、そういうちょっとしたことを気に掛けています。自分のことだけでなく、もう少し大きな視野でものを見られたらいいな、と思っていますね。
4Gamer:なるほど……。こういうことを伺ったときに、お芝居以外の話をされるのは珍しいかもしれません。
井上さん:お芝居は、そのときの精一杯でやる。そこは全力投球しかありません!
4Gamer:分かりました。では最後に、「アーシャのアトリエ」を楽しみにされている方へのメッセージをお願いします。
井上さん:アトリエの新作が出るということで、楽しみに待っている方もたくさんいらっしゃると思います。アーシャは非常に楽しく可愛いキャラクターですので、みんなに好きになっていただけたらな、と思っています。ぜひ、アーシャといろいろなところに旅して、たくさん友だちを作ってください!
4Gamer:本日はありがとうございました。
「アーシャのアトリエ~黄昏の大地の錬金術士~」
公式サイト
(C)GUST CO., LTD. 2012
※この記事は、4Gamer.netより提供された情報をもとに、テレビ朝日が改変・編集し掲載しています。元記事はこちら