くるり

くるり、ワンマンツアー2012ついにファイナル!

“ワンマンライブツアー2012〜国民の性欲が第一〜”ファイナル
11月29日(木)渋谷公会堂

楽器と機材、そして最小限に抑えられた照明。余計なものをきっぱりと削ぎ落とした、というよりは必要なものだけしかない極めてシンプルなステージは、くるりが何周も回って回って辿り着いた、新しい始まりの荒野に違いない。本編ラストの「glory days」に聴き入りながら、ふとそんなことを思った。

最新アルバムにして一大傑作『坩堝の電圧(るつぼのぼるつ)』のラストナンバーでもあるこの曲にはデビュー曲である「東京」から「ワンダーフォーゲル」「ばらの花」、最新シングルでもある「everybody feels the same」などといった代表曲の一節が平熱のまま織り込まれている。すなわち過去、現在、未来を俯瞰で見渡してパッケージされた彼らの今そのものと言っていい名曲だ。淡々と紡がれるアンサンブルから立ちのぼる力強い鼓動、後半に向かうに従ってグンと牽引力が増す。“♪進め 進め 進め”と歌う岸田繁の声は自身の背中をも押すかのようによく伸びた。

「このバンドのひとつのエンドロール……じゃないな、なんていったらいいかな。全部食べ終わって、お勘定して外に出た、みたいな、そこから、みたいな曲であります」

 この曲の演奏に入る前に岸田が語った言葉、なかでも“そこから”のひと言がそう連想させたのかもしれない。ここで終わってまた始まる。“栄光の日々”は次の一歩のためにある。

前述の『坩堝の電圧』は新メンバーに吉田省念(ギター&チェロ)、ファンファン(トランペット&キーボード)を迎えて制作された初のアルバムだ。この傑作を携えた全国ツアー“国民の性欲が第一”。サポートドラムとして今作の制作にも参加のあらきゆうこを伴って全12カ所14公演を回ったツアーのファイナルをここ渋谷公会堂で飾る。


 アルバムと同様、「white out(heavy metal)」でライヴの幕が開く。“heavy metal”というよりはオルタナティヴロックの急進的な疾駆感が印象的なオープニング。ファンファンのトランペットが流れる風景を、ドラムの太くソリッドなビートが地面を蹴る足元のたしかさを感じさせる。くるり最速のBPMを誇る「cilli pepper japones」、ファンファンの語りとタンゴの哀愁がそそる「argentina」、「dansing shoes」の歪むグランジ感と「bumblebee」のファンクなグルーヴの対比も面白い。

「こんばんは、くるりです。月並みなMCで申し訳ないですけど、今日がツアー最終日ということで。この渋谷公会堂は2003年くらいにTHE BACK HORNとGRAPEVINEと一緒にやったイベント以来で、ワンマンはたぶん2000年に『図鑑』というアルバムを出したときのツアーで最終日にやって以来です。すごい久しぶりです」

 独特のイントネーションで語る岸田。まさか干支一周するほどの時が流れていようとは。佐藤柾史との息のあった(?)掛け合いトークにほぐれたところで吉田省念がギターからチェロに持ち替えて「crab,reactor,future」に突入する。カニと原子炉と未来に象徴される不穏。テンポはけっして速くないがアンサンブルに潜むサイケなニュアンスがえも言われぬ切実を醸す。


 最新アルバムからの楽曲で固めた前半戦、インストゥルメンタル「惑星づくり」を挟んで一転、中盤以降は過去の名曲が目白押しだ。「春風」「ブレーメン」「バラの花」……まるで色褪せない音楽。肌に触れて柔らかく、曲が持つ体温が心の奥でじわりと滲む。その流れで聴く「glory days」は、だからことさらに沁みた。


 くるりとは実に不思議なバンドだと思う。これまでに幾度となくメンバーチェンジを繰り返し、そのたびに音楽性や表現スタイルを変化させている。現メンバーと出会う直前には岸田と佐藤だけで活動していた時期もあった。この日のMCで岸田は曲順も何もこんなに決まっていないバンドなかなかいない、と冗談めかしていたが、まさに予定調和を嫌い、固定観念に縛られることなく奏でられてきた音楽が、それでもなお揺るぎなく“くるり”であるということ。そして今のくるりはおそらくとても風通しがいい。個として確立した佇まいでお互いが向き合って生まれる楽曲は衒いなく“素”で、ゆえにこそ強い。例えばそれはこの日の衣装にも端的で、岸田は水玉、佐藤はチェックのシャツをそれぞれに纏い、吉田はオーバーサイズなボーダーのカーディガン、ファンファンのワンピースには大振りのひまわり柄と見事に統一感がなく、にもかかわらず“くるり”としてしっくりと目に馴染んだ。往々にしてバンドとはそういうものなのかもしれないけれど。


 「短かったからもうちょっとやる」とアンコールは5曲! 福島県相馬市を歌ったという「soma」の儚げで、けれど消えない想いが綺麗で泣ける。「すけべな女の子」に続いて、佐藤が作詞作曲、さらには朗々とボーカルまで聴かせた「jumbo」から「ロックンロール」「東京」となだれ込んで大団円。あらきを真ん中にステージ前に整列した彼らにオーディエンスの惜しみない拍手が注いだ。年が明けた1月17日には今ツアーの特別公演として日本武道館公演が決定している。年頭にくるりはどんな世界を見せてくれるのか。ここから踏みだした次を楽しみにしたい。

【取材・文/本間夕子】