サカナクション
“SAKANAQUARIUM 2012 ZEPP ALIVE”
6月19日(火)ZEPP TOKYO 2日目
音楽はなんと豊潤で饒舌なのだろう。いや、“音楽”という枠すらすでに超えていた。ステージだけでなく客席までも含んだ空間すべてで表現するサカナクションの世界。過剰なものはとことん過剰に、削ぎ落すべくは限界まで削ぎ落し、一粒の音、一点の光、一瞬の映像、言葉にならない声や感情、どれをとって必要不可欠とする。5人のパフォーマンス自体は派手でもアクロバティックなアクションがあるわけでもなく、むしろ実に真っ当で誠実で、なのに(だからこそ、か?)その徹底したプレイヤーシップがいっそう観る者の心を掻き立てる。しかも本編はまったくもってMCなし。ほとんど途切れることなく一篇の組曲のごとく紡がれる全17曲の演奏を前に、ただ陶然とするしかなかった。
オープニングSEのプリミティヴな打楽器のリズムとオーディエンスがハンドクラップがバンドの登場を誘う。ステージを覆う紗幕に横一列に並んだ5人のシルエットが浮かび、たちまち熱狂に支配される場内。幕が落ち、間髪入れず披露された「Klee」をステージ、客席フロアが一体となって大合唱する。のっけから寸分の隙もなくグルーヴィーだ。「アルクアラウンド」「セントレイ」と立て続けに放たれるキラーチューン、「モノクロトウキョー」のサイケな残響の後、一瞬の静寂を挟んで滔々と山口が掻き鳴らすアコースティックギターの音色が空間を哀愁に染め上げた「フクロウ」。照明という照明をすべてカットし、1曲まるごと真っ暗闇の中で演奏された「壁」は驚くほど温かで力強く、真っ暗だからこそオーディエンスのひとり一人がそれぞれの心の情景を曲に投影して聴いただろう。果敢な実験的精神、前半戦の白眉はこの1曲だったに違いない。
「“SAKANAQUARIUM 2012 ZEPP ALIVE”ファイナル! 楽しんでいって!」
「僕、ちょっと見えたんですよ。アルバムを出してその曲をやるツアーももちろんあるけど、新しい曲だけじゃなくこうやって昔の曲も表現していくのも面白いと思う……ロックエンターテインメントっていうか、バンドっていうものを使ってもっと面白いこと出来るんじゃないかなって今回のツアーをやって思いました。例えば真っ暗になった曲、あったじゃん? 「壁」とか。真っ暗になると音に集中するでしょ。で、バッて明るくなったら違うミュージシャンになっていたりとか。それすら楽しむこともできるかもしれない。ヒントがあったんだよね」
アンコールに応え、新曲「夜の踊り子」を含む3曲を終えたところで山口は少し長めに語り始めた。「このチームでずっと音楽が続けていけるよう……今回のツアーが全部ソールドアウトしたことを当たり前だとは思わない。去年、幕張メッセでやったのも当たり前だと思わないようにするし。もっと目指していきますよ」 さらに多くの人に訴えかけるバンドとなるべく積極的に発信し、外の世界に挑戦していくことを誓い、本当に音楽を好きになってくれる人を増やしたいと決意を新たに表明する。そうして演奏された「ナイトフィッシングイズグッド」にサカナクションの朗々たる未来を見る気がした。
本来ならばこれですべて終了となるはずだったが、この場の熱がそうはさせなかった。きっと彼らも観客も同じ想いで求めていたのだ、共に踏み出すもう一歩を。三たび明るくなったステージが躍動する。ダブルアンコールの「三日月サンセット」がやわらかく今日という日の余韻と次への予感を包み込んだ。
【取材・文/本間夕子】
【Photo/石阪大輔(Hatos)】