L'Arc〜en〜Ciel
“20th L'Anniversary WORLD TOUR 2012 THE FINAL”
5月27日(日)国立競技場2日目
余計な注釈を必要とせず、他に一切の意を含ませることもなく、ただ言葉の意味そのままに“すごい”の一語で事足りる。L'Arc〜en〜Cielを形容するにそれ以上の単語がちょっと浮かばない。唯一無二にして圧倒的な存在感。結成20周年を祝したアニーバーサリーイヤーの締めくくりをいよいよ目の前にしたここへきて、なおまざまざと知らされる。国立競技場というただでさえ巨大な空間が、けれど彼らにはぴったりとあつらえられたオートクチュールのごとく馴染んで一層大きく感じられた。
CNNならぬ臨時ニュースを装った諧謔たっぷりのオープニング映像 LCNに始まり、4人を乗せたフロートがマーチングバンドを擁して場内を練り歩く盛大な入場セレモニー(なんと聖火点灯まで!)と登場からしていかにも彼ららしい破格のスケール感で魅せる。口元に不敵な笑みをたたえるtetsuya、惜しみなくキスを投げるhyde。kenはめいっぱい手を振って歓声に応え、対照的にyukihiroはクールな姿勢を一貫して保つ。4人4様の佇まいもまたL'Arc〜en〜Cielだ。スタンド席をぐるりと囲んで掲揚された無数のツアーフラッグ。今回L'Arc〜en〜Cielがワールドツアーで訪れた(あるいは訪れる)10ヵ国の国旗(ハワイは州旗)も混じってはためいている。彼らが刻んできたワールドワイドな軌跡と今この瞬間という奇跡がクロスオーバーする遠近感にめまいを覚えてしまいそうだ。どちらをとって途方もなく、そしてかけがえがない。
「Are you fuckin' ready!?」
おもむろに繰り出されるyukihiroのビートに乗せてhydeが叫ぶ。ライヴは「READY STEADY GO」で幕を開けた。ステージの左右に伸びた全長100mにも及ぶほどの花道を、kenもtetsuyaもそれぞれにその先端めがけてグイグイと攻め込む。彼らの動きに同期してうねるオーディエンス。時折ステージ上のスクリーンに大写しになる客席はまさしく人の海、それも大海原を思わせた。昨日と今日、2公演合わせて11万人動員の記録は伊達じゃない。
「来ちゃった。とうとう今日という日が来ちゃった」
そう口にしたhydeの胸にはどんな想いが渦巻いていただろう。昨年5月28日に味の素スタジアムで迎えたステージからちょうど365日。全国5ヵ所10公演を回った“20th L'Anniversary TOUR”を経て、この2月にはニューアルバム『BUTTERFLY』をリリース。先にも触れたワールドツアー“WORLD TOUR 2012”で全14都市を訪れ、帰国後突入した凱旋公演“20th L'Anniversary WORLD TOUR 2012 THE FINAL”もついに今日で最終日だ。ロックバンドとしては史上初の単独公演となる国立競技場2Days、彼らの立つ場所から見渡した光景に4人はそれぞれ何を思っただろうか。
残すはハワイでの2公演のみ、実質、今日でまたしばらくはL'Arc〜en〜Cielに会えない……ファンの抱える寂しさを一蹴するかのように「今日は祭りやからパァッといこうぜ!」と煽るhyde。「国!」“立!”「国!」“立!”という力技のコール&レスポンスにメンバーが思わず吹き出す場面も。
「今日はホンマ気持ちよく晴れてくれたわ。こういう青い空のもとでやりたかったんですよ」
hydeのMCをtetsuyaのベースが引き継いで、溢れ出す「In the Air」。高く遥かなL'Arc〜en〜Cielの空が心の頭上にどこまでも広がった。
継続は力なり、とはよく使われる言葉だが、一方で本来的な力を宿していたからこその継続でもあったろうと彼らの20年に思う。力とは才能でありセンスであり、また実行力でもあるだろう。不屈の精神力も運の強さも4人が4人とも兼ね備えているバンドなどそうない。そして何よりL'Arc〜en〜Cielには魅力があった。磁石のように人を惹きつけて離さない図抜けた力が。そのうえで20年という継続が相乗されて今のL'Arc〜en〜Cielがある。
彼らのクリエイションは喜びであり、希望であり、可能性であり、未来であり、つまりは夢の具現だ。枯れず、夢を生み出し続けることの凄まじさをこの日、見せつけられた気がする。なにせこれほどのビッグバンドのギタリストが、これほどの会場で、自らポンポンを手にチアダンスを披露してもまるで世界観が崩れない。それどころか、その嬉々とした姿が拍手喝采で受け入れられるステージをこの先、他で見ることがあるだろうか。
メインステージの対面、スタンド席のすぐふもとに設えられたサブステージに移動して奏でられた「あなた」、そして「winter fall」。すっかり暮れた場内をサイリューウムの光がカラフルに彩る。イヤーモニターを外して客席の大合唱を直に聴こうとするhyde。闇にさざめく光の粒、ひとつ一つに想いが灯る。
ラストは「虹」だった。20年の歴史の中、この4人の始まりともなった大切な曲。思えば登場のマーチングバンドもこの曲を奏でていたっけ。
音が止み、7色の花火が盛大に夜空を飾った。こみ上げるものはある。けれど不思議と湿っぽくはなく、それがやっぱりL'Arc〜en〜Cielらしいと思った。
ドラム台から降りてようやく顔をほころばせるyukihiro、客席の端から端までまんべんなくトレードマークのバナナを投げ入れては去りがたそうなtetsuya。
「ありがとう! これからもL'Arc〜en〜Cielをよろしくね。まったね〜!!」
無人となったステージに浮かび上がったのは“NEXT WORLD TOUR Voter Registration Starts!”のニュース。次なるワールドツアー、開催都市が我々の投票で決まるという。すなわち、L'Arc〜en〜Ciel will return! まったくもってどこまでもニクい。最高の約束ではないか。
【取材・文/本間夕子】
【Photo/今元秀明 緒車寿一 田中和子】