

渋沢葉
才能が叫んでいる。怒り、悲しみ、やるせなさ……感情のすべてを剥き出しにして祈っている。その先にある光を、希望を。この6月、ミニアルバム『せきららら』でデビュー、突出したオリジナリティでシーンを騒然とさせたシンガーソングライター、渋沢葉。11月21日リリースとなる2ndミニアルバム『花はここに咲いています』を聴くにつけ、改めて彼女という存在の稀有に目をみはってしまう。今、この時代にこそ必要な音楽。どうかその手、その耳で直に触れてほしい。
Q:デビューされて5ヵ月、実感としていかがですか。
渋沢葉:聴いてくれる人が実際、目の前にいるのがわかるし、広がっているのも感じるのですごく嬉しいです。今回のアルバムは今しか歌えない、今の私が等身大で歌って目の前の人たちに届けたい曲を集めたので、よりリアルになった気がしますね。曲自体はもっとたくさんあるんですけど、その中から今しか歌えないものを、と思って。特に「破壊BOSSジャム聖飢魔Ⅱメイク」と「ARE YOU PANPI?」は絶対入れたかった。
Q:“今しか歌えない”っていうのはどういう?
渋沢葉:今の私の年齢と状況と環境と。
Q:環境=世の中、と考えていいですか。
渋沢葉:はい。私たちの世代ってすごくソーシャルネットワークが発達してて、実体が掴めない虚無感がすごくあるんですよ。なかなか同年代じゃないとわからない感覚だと思うんですけど、私より年下の人たちはもっと深刻で。そこに対する……前作『せきららら』の1曲目、「BELIEVE」では“目を閉じていい、目を塞いでいい”って歌ってるんです。自分を守っていいんだよって。
Q:自分を守る。
渋沢葉:もっと自分と向き合う孤独な時間、そうすることで逃げられる場所が必要だと感じてて。私が学生の頃はまだそれがあったけど、今はネットにずっと依存していなきゃいけない、みたいな風潮があっるじゃないですか。私もすごく苦手だけど、自分を守ることができない10代の子たちはダイレクトに今、生きていて大変だろうなって思うんですよね。
Q:実体はないけど繋がってないと怖い、みたいな妙な束縛感はあるかもしれません。
渋沢葉:人と人が生身で関わることってすごく大事なことで。誰かをぶてば相手は痛いけど、自分も痛いでしょ? でも今は痛みを感じずに誰かを傷つけることができるし、感動するにしても実際に触れて、っていうことがすごく少なくなってきてる気がする。もちろんいい面もあるけど、そういった大きな風潮に対して“違うだろ?”って言いたいんです。それがひとつテーマとして私の中にあって。
Q:アルバム全体を通じて怒りややるせなさ、もがいてる感じ……そういうものを強烈に感じたんですよ。こんな感情の塊みたいな音楽、叫びそのものな音楽があるんだ! って最初に聴いたときは本当に衝撃でした。
渋沢葉:ありがとうございます、嬉しいです。怒りも、もがいてる感じも、もちろん嬉しい気持ちも私は全部が音楽になるんです。自分を全部正直に表現してるので。そうすることで、どこかには共感してくれる人がいるかな、って。そこに向かって届けたい。
Q:実際、曲はどういうふうに作られてるんですか。
渋沢葉:作曲活動は仕事がない日は毎日してます。朝、起きて、まず最初に鍵盤に向かうんです。私、朝がすごく早くて夜中の2時とか3時とかに起きるんですよ。で、4時くらいから始めるんですけど、そのくらいの時間がいちばん集中力が高いので。
Q:そのぐらいの時間帯だと外も静かでしょうね。
渋沢葉:そうなんです。私は“酸素が濃い”って表現してるんですけど(笑)。日中、人間がいっぱい出した二酸化炭素を緑が吸って、すごく澄んだ時間帯というか。早起きの人でもまだ起きてないし、夜更かしな人でも3時くらいには寝るかなって。4時が最高なんですよ。
Q:ちなみに寝るのは何時頃?
渋沢葉:19時とか……。
Q:え! じゃあ今もう眠くなってきてません?(※インタビューは18時半にスタートしました)
渋沢葉:大丈夫です(笑)。いつもだったら寝ちゃうけど。
Q:それにしてもアグレッシヴな作品ですよね。曲タイトルからして攻め込んでるなって。「破壊BOSSジャム聖飢魔Ⅱメイク」とか“なんだ、これは!?”っていう。
渋沢葉:あははははは。これは自分で“聖飢魔Ⅱメイク”って呼んでるメイクがあって。毎日、作曲をしているから朝が勝負なんですけど、朝って落ち込みそうになることも多くて。だから夜、歌舞伎役者みたいな聖飢魔Ⅱメイクをしてイヴ・サンローランの口紅を塗ってから寝るんです。で、朝一番に起きて鏡を見たときにビックリ仰天して、そのまま作曲活動に入るっていう。そういう生活を1年ぐらいしていたので、そのことをそのまま素直に曲にしたんですけど。
Q:実話だったとは(笑)。朝イチにその顔を見ることでテンションが上がる、と?
渋沢葉:そうなんですよ、ビックリして落ち込まない。そのままのテンションでワーッと作曲をして。で、夜は寝る前にお風呂に入ってきれいになったところにまたガッとメイクをして、っていう(笑)。
Q:お肌、荒れないです?
渋沢葉:もうね、大変でした(一同爆笑)。
Q:渋沢さんは落ち込みやすいタイプですか。
渋沢葉:曲を作ってないと落ち込んじゃう。他のことをしてても、それを肥やしにして曲に落とし込まなきゃって思うから、できてないとストレスなんですよ。受験生なのに勉強してないっていう、あのストレスと一緒で。
Q:じゃあ、かなり音楽に救われている……?
渋沢葉:救われてます、かなり。
Q:作詞作曲を始めたのはいつ頃ですか。
渋沢葉:18歳ですかね。
Q:てことは中学・高校の頃ってかなりつらかったのでは。
渋沢葉:でも今の肥やしに全部なってるので(笑)。私は絵も描きますし文章も書いてますけど、やっぱり音楽がいちばん。まず音が好きだし、歌詞というものが好きなんです。私は話し言葉に後悔することがすごく多いんですよ。でも話し言葉って自然に生まれるアクシデントのようなもので。
Q:わかります。その場の状況に応じて咄嗟に出ちゃうし、出さなきゃいけないものだから。
渋沢葉:そうそう。逆に言えば素が出るってことだけど“なんでもっとこういう言い方できなかったのかな”って考えてしまって。でも歌詞だったら、ひとつ“これ!”っていうのを決めれば、ずっと同じことを言えるじゃないですか。メロディもついて音楽として伝えられるし、全部を込めてるからいちいち説明しなくてもいい。そこが自分に合ってるんです。
Q:「ダメゼッタイ」もすごく聴き手に本音に迫ってきます。“本当にそうなの?”って。綺麗事を暴くというか。
渋沢葉:これは9.11が起きて、その出来事に影響を受けて書いたんですね、もともとは。でも今の時代にもピッタリだなと。ホント口先ばかりというか……私は悪いことといいこと、両方あるべきだと思っていて。なのに“これは悪だ、私が正しい”って言って悪いことを隠すというか、片方しか見せてないって感じるんです、今の世の中に対して。そんなの嘘だし、絶対違う。
Q:アルバムタイトルの『花はここに咲いています』は5曲目「祈り」の歌詞の一節でもありますね。
渋沢葉:それが私のいちばん伝えたかったこと。“something so sad when you feel”……何か悲しさを感じたときに“花は枯れています”“しおれています”ではなくて、“咲いています”って伝えたかった。大丈夫、ちゃんと光に向かっているから、って。そういう希望を伝えたくてアルバムのタイトルにしました。
Q:怒りややるせなさに満ちていても、最終的に歌いたいのはやっぱり希望。
渋沢葉:希望です。光でもあるし。
Q:この“花”はどんな花なんでしょう。
渋沢葉:それは聴いてくれた人、それぞれに思い浮かべてもらえたら。でもニッコリ笑ってるイメージはあります。ニッコリ笑って咲いてるっていう。
Q:ああ、いいですね。では最後にこの先、渋沢葉が表現していきたいことを教えてください。
渋沢葉:私自身も含めて弱い立場の人に届かなきゃ意味がないって思ってるから、とにかくそういう人たちを裏切らない曲をずっと歌っていきたい。絶対に強者の側ではありたくない、大多数ではありたくないって思ってます。だからこそ、まずは正直になること。正直に生きて伝えていけたら、と。
【取材・文/本間夕子】
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『花はここに咲いています』
渋沢葉
2012/11/21[mini album]
\1,800(税込)
VICL-63956
ビクターエンタテインメント