クリープハイプ
どうしようもない無力さは力にもなるのだと思った。4月にリリースされたメジャー1st・アルバム『死ぬまで一生愛されてると思ってたよ』に続く、メジャー1stシングル「おやすみ泣き声、さよなら歌姫」。サウンドに溢れる疾走感、胸を締めつける切実な詞、尾崎世界観の唯一無二な歌声が三位一体となってあなたを鋭く刺すだろう。
Q:メジャー1st・アルバムとはまた気分は違うものですか。
尾崎世界観:違いますね。今、シングルがあまり売れないと言われてる中、出すことになったっていうのはやっぱり嬉しいです。それだけ1曲で勝負できると思ってもらえたんだなと。今回は先にリリースのスケジュールが決まっていたんですよ。それで5月末ぐらいに曲を作って、6月末ぐらいにレコーディングして。ツアーと同時進行で制作してました。ホント作ってすぐ録った感じで。
Q:じゃあ意識としては“シングル曲を作るんだ”という?
尾崎世界観:それはありました。そうやって作るのも初めてなので楽しみつつも戸惑ってた部分は結構あって。自分が思う“シングル曲”と、世の中が聴いて感じる“シングル曲”をどれだけ一致させられるかが難しかったです。メジャーデビューしたからにはやっぱり聴いてくれる人の人数を増やしたいし、そのためにはこっちが入口を広げていかないと、いろんな人が入ってこれないので。
Q:尾崎さんから上がってきたものを聴いていかがでした?
長谷川カオナシ:まさにサビが始まって2秒ぐらい、4拍1小節でもう“この曲の顔だ!”って。すぐ覚えられるし、これが“シングルっぽい”ってことなのか、そういう曲がきたなって思いましたね。
小川幸慈:聴いた瞬間、“これはきたな!”って。
小泉 拓:僕は初めてみんなでスタジオで合わせたとき、演奏しながら感情が爆発したんですよ。これは“いい曲だ!”と思って。知らない人も取り込むという意味で名刺代わりになる曲がシングルだとしたら、この曲はそういう強さが出てる。
Q:歌詞の世界とステージに立って歌ってる尾崎さん自身の姿が重なって感じられたのですが。
尾崎世界観:はい。実は歌詞もかなり追いつめられてて(笑)。時間がないのに書けなくて……もう終わりかな、みたいな。飛び降りるつもりはないのに屋上にのぼっちゃう感覚ってわかります? 別に死ぬ気はないのに“ここから落ちたら俺、どうなっちゃうんだろうな”って思ってしまう感じ。そういう感覚で“もう時間もないし、これでもし自分がバンドを辞めて最後の曲を歌うときだったらどんな気持ちなんだろう”と。それを客観的に観てる人の視点で書いたんです。
Q:ということは“歌姫”=尾崎世界観。
尾崎世界観:そうなんです(笑)。
小泉 拓:僕、その設定を他のインタビューで聞いて、発想に衝撃を受けたんですよ。そこまで追いつめて言葉をひねり出してるのがすごいと思いましたね。
長谷川カオナシ:僕はレコーディング直前ぐらいに歌詞の全貌を読んだんですけど、その時は“歌姫”が尾崎さんだって知らなくて。でも、もしかしたら、この“歌姫”は尾崎さんじゃないか? って匂いを感じたんです。だとしたら、さぞ追いつめられてたんだなと思って焦りました。一緒にツアーを回ってるのにそれに気づいてなかったんで。
Q:“僕は気づけなかった”という歌詞そのものじゃないですか。
小川幸慈:俺も“僕は気づけなかった”ですね。最初はラブソングなのかなと思ってて、悲しいけどいい歌だなと思ってたら、レコーディングの後、飲んでたときに(長谷川が)“これ、尾崎さんですよね”とか話してて“あ、そうだったんだ……”って(笑)。でも、そうやっていろんな聴き方ができるし、どういうふうに聴いても自分に重なる部分がある。すごいものを書いてきたなと思いましたね。
Q:カップリングもそうですけど、尾崎さんの書く歌詞はどこかに無力感が漂ってますよね。そこに非常に惹かれるわけですが。
尾崎世界観:自分がまず感動できる言葉じゃないとわざわざ書いて歌う意味がないと思っていて。自分の歌で嘘はつきたくないんですよ。これまで、いろいろうまくいかないまま音楽を続けてきたから自然と“これがダメだった”“あれが届かなかった”とか、そういう経験ばっかりが積もるし、歌詞も自然とそうなる。でも、それが自分の正直な言葉だし、無力感はあるけどそれを本気で歌って、しかも自分が“これは届く”と思えるメロディに乗せてるから。言葉を朗読するだけだったら考えるけど、いいメロディがあって、それに乗せて歌うなら言いたいことを言って大丈夫だっていう自信があるんですよね。
Q:だから、どこかしら無力は無力でいいじゃん、みたいな肯定的な強さを感じるんですよ。むしろ前向きなパワーを感じる。
尾崎世界観:そう、“無力なんだよ、どうしよう”じゃなくて、“無力だから、こうしていくんだ”っていうことを提示できればと。そこがちゃんと伝わるといいんですけどね。
Q:ところでクリープハイプが今の形になったのが2009年ですよね。結成時は3ピースバンドで、その後、当時のメンバーが脱退して尾崎さん一人で活動されてた時期もあって。みなさんはクリープハイプのどこに魅力を感じて加入されたんでしょう?
長谷川カオナシ:僕が初めてクリープハイプを観たとき、まず声にビックリしたんですよ。あと当時ライヴをやってるときの尾崎さんの目がすごくて。こっちも目を離せなくなるんです。それと、歌詞。難しい言葉は遣わないじゃないですか。なのでライヴで聴いててもわかると言ったらおこがましいけどニュアンスを嗅ぐくらいはできて、しかもすごくいい。まずはその3点じゃないかなと思います。
Q:では、ご自身が加わった、今のクリープハイプのよさは?
長谷川カオナシ:それは変わってないと思いますね。当時、観客として私の観たものを排出するために楽曲を構成したいと思ってるので。
小川幸慈:クリープハイプの魅力の柱はやっぱり尾崎自身。僕も入る前に観てたときから“匂い立つ何か”はすごく感じていて。それって意識して出すものじゃなく出ちゃうものだと思うんですよ。そういう魅力がすごいいっぱいあって、今のクリープハイプもそこがまず根っこになってると思いますね。
Q:小泉さんはいかがですか。
小泉 拓:それまで自分がやってきたバンドは全力でやっちゃうと浮いちゃう感じがしてたんですよ、ドラムだけ。でも、このメンバーはみんなキャラが濃いから思いきりやっても大して目立たないというか(笑)、トータルでちゃんとバンドに見えるのがすごくいい。自分にとってはそれが一番大きいですね。歌詞も共感できるから、しっかり歌を伝えようという気持ちでドラムが叩けるし、もう全然不足がないので、あとは自分が頑張るだけ。自分の演奏でいかにバンド全体を押し上げられるか、どれだけ広く伝えられるか。
Q:やり甲斐ありますね、それは。責任も重大だと思うけど。
小泉 拓:そうなんですよね。でも人生懸けちゃってるわけですから、やり甲斐があるほうがいいなと。 尾崎:きっと他のバンドに比べたら独特な関係なんですよ。形としてかなりイビツなので、現段階、まだ多くの人には届いていないけど、でも聴いてみたら、このイビツさがその人の中のグチャグチャな部分にハマる可能性があると思うんですよね。そういう人の数をどんどん増やしていきたい。そこはわかる人にだけわかればいいとは思ってない、それでは満足できないし、だからこそこうしてシングルを出すわけで。今のこのイビツな形のまま、もっと多くの人にわかってもらえるように試行錯誤して頑張っていきたいと思ってます。
Q:メジャーデビューしたことで形がきれいになったりはしませんかね。
尾崎世界観:それはないんですよ、不思議と。今までだって、どうやっても無理だったし(笑)。それでも徐々に周りに求められる状況が少しずつ広がってきて。一時期、これじゃダメなのかなって不安になることもあったけど、メジャーデビューして“これでいける”っていう確信が持てたので。
Q:イビツなままデッカくなったらすごそうだな。
尾崎世界観:迷惑でしょうけどね(一同爆笑)。そうなれるぐらいに頑張ります!
【取材・文/本間夕子】
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