サンボマスター
壮大なラブソングアルバムだと思った。生きとし生けるものすべての魂と、たとえ失われてもなお心の深くで連綿と生き続ける命に捧げられたロックンロールという名の愛の歌。ついにリリースされるサンボマスター渾身のニューアルバム『ロックンロール イズ ノットデッド』を彼らの言葉で届けたい。
Q:オリジナルアルバムとしては2年3ヵ月ぶりということで。
山口隆:それぐらい経ちますね。
Q:とはいえ前作のときも2年半ぶりでしたけど(笑)。
山口:そうでしたっけ!?(一同爆笑) そっか、そっか。
Q:だからスパン的には変わりないと思うのですが、それでもやはり、この2年3ヵ月は前とは意味の異なるものになったんじゃないかなって。
山口:そうですね、特に去年からの1年は考えるべきことが多い毎日でしたし。
Q:音楽やロックンロールというものに対しても意味が変わってきたりとか。
山口:何をもって変化とするのか、うまくは言えないんですけど、多くの人にとって変わっただろうなという気はします。でも自分たちの場合は、むしろ強く確認したという想いのほうが正確かもしれませんね。やっぱりロックンロールをやるべきだと。
木内泰史:去年1年は日本にとって世界にとって特別な1年だったと思うんです。震災という一生忘れることのできない出来事が起こって……当初は音楽なんてこれからできるのかも一体どうなっていくのかも全然わからないぐらい怖い毎日を過ごして。今までだってもちろん一生懸命、音楽をやっていたけれど、それが本当に特別なものだったんだって改めて気づかされて。
近藤洋一:ただ、自分たちの音楽に対するスタンスとか、そういうものが変わったとは思わなかったです。去年はベストアルバム発売のタイミングでもあったんで過去の曲を演奏するツアーを1年間ずっとやりまして。そこで震災前に作った曲たちを震災後に歌うわけですけど、自分の気持ちとのギャップとかまったく感じることがなかったんですよ。むしろ“何か新しいことが起きてるな”っていう気持ちになれて、それが今回のアルバムにつながって。
Q:ちなみに、ここに収められてる12曲(初回限定盤のみ全13曲)はいつ頃作られたものなんですか。
山口:僕の場合、曲の原型みたいなものはもうバラバラバラっとあるんですけど、メロディがあってコードがあって歌詞があっても、それだけじゃ僕の中では完成じゃないというか。3人一緒にずーっと練習して演奏して、そこで最終的に曲が完成するんです。3人で、いっせーのせ! でやって初めて命が吹き込まれる。今回は年明けからずっとその作業をやってました。だからこの12曲は今年に入ってすべて完成したと言っても過言じゃない(笑)。
Q:すごい集中力ですね、それは。
山口:駆け抜けましたね、本当に(笑)。いやぁ、キツかったね。
木内:普通、年明けてリフレッシュしてから、さあ今年も始めようってなるんですけど、まだ去年が終わった感じがしなかったですもん。
山口:年末に僕が猪苗代湖ズでNHK紅白歌合戦に出させていただいて、ふたりも来てくれたんですよ。で、元日の朝5時まで一緒にいたんだもんな、結局。
木内:朝まで生のラジオ放送をやって、その後、打ち上げ(笑)。
山口:で、3日ぐらいオフをもらって、すぐですもん。
木内:4月の頭まで作ってましたからね。しかも作業が終わった翌々日からツアー(笑)。も〜う大変でした。そういえば年末に洗車をしようと思ってたのにまだ洗ってなかったな。今、思い出した。
山口:マジかよ〜(笑)。けど、だからって手を抜くわけにはいきませんからね。もうね、今回のアルバムを作るのに、去年1年、ものすごいものをいっぱいもらったんですよ。ライヴに来てくれたお客さんの熱だったり、支援のために立ち上がった仲間のミュージシャンたちがそれぞれの活動で与えてくれた衝撃とか。そのエネルギーを循環させなきゃいけないなってずっと思ってて。逆にその想いが強かったからやりきれたのかもしれないです。でもホント魂やら命やら入れても入れてもいっぱいにならない容器みたいな感じでしたね、このアルバムは。そういう作業がやれてよかったなって思いますけど。
Q:5月の新木場STUDIO COASTで初めて新曲を聴かせていただきましたけど、あの空間に満ちていた熱も相まって、すごく美しいと思ったんですよ。その美しさがこの作品の中にも詰め込まれていて、もしかしたら“美しい”という形容詞がサンボマスターにいちばんしっくりくるんじゃないかと思うぐらい。
山口:あははははは、ありがとうございます! 美しいかどうかはわからないけど、剥き出しのほうがいいとは思って作りましたね。2曲目「あなたのことしか考えられない」はラブソングだけど「ロックンロール イズ ノット デッド」と同じくらい剥き出しで歌いたいと思いましたし。グワッとこう……あるじゃないですか。その“グワッ”を入れなきゃいけないし、それがちゃんと過不足なく出ないと嘘になっちゃう。カッコつけたりして嘘になることをとても嫌うアルバムでしたね、今回は特に。今まで以上に“カッコつけるな!”って言われてる感じがして。
木内:きれいに整えることと剥き出しでやること、どっちが心に訴えるかは、それぞれたぶん別のところにあるから、それはちゃんと選択できるようにしようって。
山口:面白いもので“曲が望む”っていうのもホントにあって。「ロックンロール イズ ノットデッド」は、僕は最初ガンガンに叫んで歌いたかったんですよ。けど曲があまりそれを望まなかった。こうやって朗々と歌う感じを望んでて。
Q:へぇ!
近藤:自分たちで演奏したトラックとはいえ、自分たちのものではない感じもありましたね。もはや自分たちが制御するようなものではないというか。なんていうのかな、やっぱり去年、僕たちだけじゃなく、たくさんのミュージシャンや音楽が好きな人たちが撮った行動や思ったこととかが体を巡って出てきたものなんだろうなって。去年ライヴをやっていて、はっきりと形にはなってないけどノドまで出かかってたものが言葉にすれば“ロックンロール イズ ノットデッド”だった気がする。それをバッと吐き出して、“コイツはどんなヤツなんだろう?”って3ヵ月間つき合いながら形にしたのがこのアルバムっていう感じですね。
Q:初回限定盤はDVDアルバム『あなたのことしか考えられない』との2枚組になるわけですが。こちらがまた70分越えの大力作で。
山口:これも相当、頑張りましたね〜(笑)。今年の3月11日にスペースシャワーTVのみなさんが企画してくださって「I love you & I need you ふくしま」と「あなたのことしか考えられない」の2曲を生ライヴ放送でやらせてもらったんですけど……なんであの時、新曲がもっとあるっていっちゃったんだろう、俺(笑)。それで、こっちにも新曲(CDには未収録)をスタジオライヴという形で入れさせてもらってるんですけど。めちゃくちゃ緊張するんですよ、あれ。
Q:あの表情はそういうことでしたか。
山口:ただし、こっちでやってる曲は趣味性がより高い曲だから、演奏してる楽しさは半端じゃなかったですけどね。そういうのとか、去年、福島で開催したフェス“LIVE福島 風とロックSUPER野馬追”の映像とかミュージックビデオ、ドキュメンタリー映像とかを全部まとめて“DVDアルバム”っていう形にしたくて。
Q:ちょっとした見どころなどあれば教えてほしいです。
近藤:やっぱりサンボマスターのDVDといえば副音声でしょう。
山口:あと隠しトラックな、近藤洋一が撮影した僕のピアノ弾き語り。すごいですよ、大笑い。ビクターの人が入れるのを渋ったっていうくらいの(一同爆笑)。
Q:それも楽しんでいただいて。とにかくサンボマスターが今届けたいものがこの2枚に収められていると。受け取った人たちにどんなふうに聴いてほしいとかありますか?
山口:いやもう好きなように。このアルバムは聴いた人が完成させるべきアルバムだと思ってますから。どうしても震災の話にはなりますけど、変に難しいこと考えなくて構わない、それぞれに聴いて感じてくれたらそれが100点。
【取材・文/本間夕子】
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ロックンロール イズ ノットデッド[初回限定盤CD+DVD]
サンボマスター
2012/07/11[アルバム]
\3,500(税込み)
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ビクターエンタテインメント
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ロックンロール イズ ノットデッド[通常盤CD]
サンボマスター
2012/07/11[アルバム]
\3,000(税込み)
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