ジャンク・フジヤマ
日本随一のドラマー、村上“ポンタ”秀一に見いだされ、インディーズ時代から熱烈なサポートを受けてきた男、それがジャンク フジヤマだ。東芝CMソング(東芝製スカイツリーエレベーター)、ABC朝日放送「大同生命presentsヒットの泉〜ニッポンの夢ヂカラ」エンディングテーマとしてすでに彼の音楽を耳にしている人も多いだろう。どこまでも伸びる力強い歌声、太く芯のあるメロディ、他と一線を画す本物のポップネス。シングル「あの空の向こうがわへ」でいよいよメジャーシーンに打って出る彼の、熱くてでっかいその意気をどうか受け取ってほしい。
Q:音楽を志したきっかけは?
ジャンク:真剣にプロになろうと思ったのは大学のときですね。当時、組んでいたバンドのドラムに誘われてライヴを観に行ったんです。そこで初めてファンクというジャンルの音楽を生で耳にして。それまでブラックミュージックは濃すぎてわからないなと思っていたのが、生で音を体感したら急に聴けるようになっちゃった(笑)。“なんだろう、これ? なんで俺はこんなに興奮してるんだ? グルーヴってこういうことなのか?”みたいな。そこから60年代、70年代、分け隔てなくウワーッといろんなブラックミュージックを聴き漁って。
Q:これが俺のやりたい音楽だと?
ジャンク:はい。音のあり方としては今、僕がやっている音楽に直結しているかわからないけど、精神的な面での“熱さ”はすごく大切にしてるので。どんなスタイルであれ、そこに熱ぼったい魂が乗ってくる。それが音楽だと思ってます。
Q:“熱ぼったい魂”とは具体的にいうと?
ジャンク:歌に込めてるもの、ですよね。力強さだったり抑揚だったり、それこそ魂がなせる業というか。テクニックではなく、自分の中に“こう歌うべきだ”っていう答えが出ているので、それに向かっていく感じなんです。
Q:魂は歌に宿る、と。
ジャンク:僕の場合はホントそうです。まず歌が中心にあって、そこにサウンドがついてくる。もちろんどちらも同等に大事ですけど。
Q:ファンクに衝撃を受けたとおっしゃいましたが、メジャーデビューシングルの「あの空の向こうがわへ」を聴いた印象としては“シティポップ”と呼ばれる音楽に近いのではないかなと。
ジャンク:おそらくリスナー側の一聴したカテゴライズはそっちになるでしょうね。でも僕、自分ではシティポップをやってる気持ちは何一つないんですよ。
Q:へぇ!
ジャンク:僕はただ好きな音楽をやっているだけ、“これってシティポップって言われるんだ”っていう(笑)。それにね、シティポップ代表みたいに言われてる曲って実はこれと、インディーズ時代に出した「Morning Kiss」くらいで。当然、僕のルーツにそうした音楽もありますけど、それが僕の最終目標ではなくて。表現のあり方として今後もこういうものが出てくることはあるかもしれないけど、常に16ビートをカッティングしてるってことはないです。自分の中でジャンルを作ってしまうと、それしかやらなくなるけど僕はそういうミュージシャンではないと思ってて。
Q:いわゆる“職人”ではない。
ジャンク:うん、ないです。
Q:面白いな。でもシティポップ云々を置いておいても、この“声”は武器ですよね。その自覚はされてます?
ジャンク:そういうとちょっとナルシストっぽいですけど(笑)、根拠のない自信はあります。それを根拠づけしていくのが自分の活動だと思ってるし。
Q:いつ頃、気づきました? 自分の声がいいって。
ジャンク:う〜ん、今がいちばん実感してるかも。これだけたくさんの人が関わってくれるようになって、背負ってるものが大きくなってる実感もあって、それが期待度だとも思いますし。そういうのはヒシヒシと。
Q:そこへ至るに村上“ポンタ”秀一さんとの出会いはやはり大きかったでしょう。そのへんの経緯を教えていただけますか。
ジャンク:2009年にインディーズでアルバムを1枚出したんです。当時は20代半ばで、これを出して何も反応がなかったら音楽をやめようと思ってたんですよ。そしたらひょんなことからポンタさんの耳にとまって。“面白い。今のこの時代に俺たち世代の音楽が好きで、こんなふうにやってくれるヤツがいるのか”って。“こんな大バカいないぞ、早く連れてこい”って(笑)。それで“一緒にライブやるぞ”ってことになったんです。
Q:ポンタさんの第一印象はいかがでした?
ジャンク:いやもう、迫力のあるオジさんだなと(笑)。
Q:ジャンクさん、物怖じしなさそうですよね。
ジャンク:あははははは、はい。だって、そうなりたいと思ってたやってきたわけで。でも不思議な感じでしたね。自分が聴いてた人たちと一緒にやれるなんて。不思議だし、感慨深いし、もちろん自信にもなりましたし。それこそ音楽一直線でやってきたことを認めてもらえたということで。
Q:ただ、語弊があるかもしれませんが、ジャンクさんの音楽は今の日本でいう“J-POP”とは別なところにあると思うんですよ。いわゆるメインストリームではないというか。
ジャンク:でも僕の音楽もようやくこうしていろんな人に聴いてもらえるところまできたので。ここからメインストリームに乗り出していこうかと。これが音楽だ! みたいな。そのへんはポンタ師匠の勢いそのままに影響を受けてます(笑)。でも、これぐらい強いほうが説得力あるよなと思って。ウジウジと“ちょっとすいません、ちょっとすいません”って及び腰で進みたくはないので。そこはもう臆さず“聴いてください!”と。
Q:今の状況は願ったり叶ったりですね。いい風が吹いて、いい波がきて、そこにちゃんと乗っかれてる。
ジャンク:はい。でも、だからってそこであぐらをかくのではなく、作品としてきちんとしたものを作らなきゃいけない。まずはそれです。それがあったから、今の状況もあるわけでね。今こうして本道に出て来れて、J-ROCKだ、J-POPだと闘えるっていうのはね。
Q:CMでご自身の曲が流れてきたときはガッツポーズだったでしょう。
ジャンク:たまたま入ったラーメン屋のテレビから、いきなり♪ドッタタタ〜って流れてきて、うわ! みたいな(笑)。
Q:カップリング「曖昧な二人(Live Version)」もとても好きで。すごくソウルフルですよね。「あの空の向こうがわへ」が綺麗に整えられたポップスだとしたら、この「曖昧な二人」はすごく人間臭いというか、声から体温を感じるような。
ジャンク:それが僕の軸ですね。それなくして「あの空の向こうがわへ」はない。魂の熱さがあるから綺麗に整えることもできる。綺麗に整ったものからは魂の熱さは生み出せないけど、魂の熱さがあるからより広く世の中に発信ができる。
Q:魂の熱さだけ吐露しても、それは自己満足になっちゃうし。
ジャンク:そうなんです。やっぱりポップであることは大切ですよ。聴いてもらってこそですもん。“難しい世界に飛び込んだね”ってよく言われますけど(笑)、一部のコアだけに認められればいい、ではないですから。
Q:ところで“ジャンク フジヤマ”というアーティストネームにはどういった由来が?
ジャンク:ポップスを和製洋楽っていう意味で考えると“和製”と“洋楽”って相反する言葉で。“和”だけど、やってることは“洋楽”。つまり俺ってニセモノじゃないか、と(笑)。でも、ただニセモノってだけじゃ聴いていただいてる方に申し訳ないので、ニセモノの中でもトップになってやろうってことで“フジヤマ”と。
Q:カッコいいですねぇ。でも富士山を名乗ってしまったからには。
ジャンク:もう、いくとこまでいくしかない(笑)。でも洋楽的要素を取り入れつつ、日本人が日本語で歌う、それが面白いんだと思うんですよ。逆に言うと、その面白さは日本人しか味わえない。向こうの人からすれば“なんで日本人は俺らの真似をするのかよくわからない”ってことかもしれないけど、真似じゃないんですよね。
Q:ジャンク フジヤマというアーティストは今後どういう存在になっていくんでしょうね。
ジャンク:現状、こういう音楽って40代50代だけのものだったりするじゃないですか。雰囲気として僕ら世代は閉め出されてる感がある。そこを突き抜けて、自分がやってることをもっと若い世代にも伝えて“こういう音楽があるんだ”ってまずは知ってもらいたい。世代とかジャンルとかそういうのをぶち壊して、いいものはいいよねって共有していきたい。
Q:そうしたら音楽シーンにまた新しい可能性が生まれるし。
ジャンク:そうなんですよ。すごく豊かになると思う。僕がその突破口になれたらって思いますね。
【取材・文/本間夕子】