INTERVIEW

トニー・レオン

中国各地に実在した武術の宗師=グランド・マスターたちの壮絶な運命と激闘を描く『グランド・マスター』が公開中だが、ウォン・カーウァイ監督に続いて主演の伝説の“グランド・マスター”葉問(イップ・マン)役、トニー・レオン様にも直撃インタビュー! その過酷にもほどがある撮影に、「もう無理」と音を上げたことまで激白するレオン様! そこまで過酷になった理由や、そこまでして描く意味とは!? レオン様が本音で語ったぜ!

 

■完成した映画を観てショック!? 「仕方がないです。カーウァイ監督なので(笑)」

Q:中国武術、すなわちカンフーは人生で初めてだったそうですね。それ以前に、カーウァイ監督の作品で実在の人物を演じたパターンも初めてだった、ということになりますか?

 

カーウァイ監督はいつだって完璧な脚本を持っていないので、実は自分が演じるキャラクターが一体何か、ストーリーの内容もまったく分かっていないのです(笑)。だから毎回、プレミアを観るたびにサプライズなわけですが、その点、今回のイップ・マンは実在の人物で、いろいろな資料があって誰だったかよく分かっていました。でもチャン・ツィイーなど僕以外の人たちは、自分のキャラクターが何かが分かっていなかったと思います(笑)。

 

Q:しかし、完成した映画は大傑作ですね! 冒頭の雨の中の激闘に、ノックアウト確実で!

 

実は、あのシーンの撮影のために、一晩だけで少なくとも100テイクは撮っていましたよ。あの通りはとても長く、実際には通りの一番端から反対側の端まで、迫り来る敵とバトルしながら移動するという映像をすべて撮っています。でも、撮った素材をほぼ使わず、編集で落ちてしまうことは撮影中も分かっていました。完成した映画を観た時に、正直ショックでしたが、それを言っても仕方がないことです。カーウァイ監督の映画なのでね(笑)。

 

■トニー兄貴、「もう無理」とまさかの白旗!! その時、カーウァイ監督の反応は?

Q:ハードなトレーニングを経て本物の武術を会得する一方、ケガに相当困ったそうですね。

 

はい。1度目はカンフーのトレーニングを始めて半年ほど経った頃、相手の蹴りを左手でかわそうとして骨折しました。クソッ! と思いましたよ(笑)。何が悔しいって、それまでのトレーニングがすべてパアなのです。その2週間後にトレーニングを再開して、しばらく経った後に撮影も再開しましたが、完治していなかった左腕に2度目の蹴りが命中してしまって、また半年ほど撮影が延びました。その時、焦ることは禁物だって思いました(笑)。

 

Q:ついてないっす。素人意見ですが、逃げ出したくなるほどモチベーション下がりますね。

 

ああ、そうですね。実は先ほどの雨のシーンの話ですが、夜の7時に始まって翌朝7時までの徹夜の撮影が、50日間も続きました。雨のせいで寒い、濡れているから足元は滑る。その中で、僕は一人で何十人もの敵と戦わなければいけなかった。季節は10月。さすがに今回初めて、カーウァイ監督に「もう無理」と音を上げましたが、するとカーウァイ監督は「ああ、分かっている、分かっている」と(笑)。仕方がなく薬を飲みながらやり過ごしていましたが、そのシーンが終わった後、僕は気管支炎になって入院してしまいました(笑)。

 

■もしかすると人生というものは、大変な時が一番いい時だったりするものかもしれない

Q:まさしくイップ・マンに匹敵する苦労をしましたね! 完成した現在、何を想いますか?

 

演じる前は彼に関する本や写真を見たことがある程度でしたが、こうして彼の人生を振り返ってみれば、山あり谷ありの人生を経験してきた人だということが分かりました。しかし、それにも関わらず、まっすぐな精神の持ち主だった点がすごいと思います。おそらくカンフーによって、彼の生き方は啓発を受けたことでしょう。カンフーが彼に信念というものを植えつけ、そして僕自身彼に啓発を受け、最後はカーウァイ監督に感謝しました(笑)。

 

Q:この『グランド・マスター』は、観る人の人生を変えそうなメッセージに満ちています!

 

もしかすると人生というものは、大変な時が一番いい時だったりするものかもしれないです。落ち込み、ブルーになっている時のほうが、勇気や忍耐力が必要なことがありますよね。僕の場合、この映画のために4~5年を費やしました。その過程の中で、いいこともあれば悪いこともありました。そうした数々の問題を克服して、最終的に完成したのです。それは、人生で代えがたい、いい経験になりました。僕たち映画を作る人間にとって、そういうことが、いい結果につながっていくものだと確信します。映画を応援してください。

 

■取材・構成・撮影/鴇田 崇(OFFICE NIAGARA)

 

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