インタビュー


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人気作家・桜庭一樹による小説を初の劇場用アニメーション化した『伏 鉄砲娘の捕物帳』。「南総里見八犬伝」を新解釈した“大江戸ブレードランナー”的な本作は、祖父の死を契機に兄を頼って架空の水都・江戸へ上京する主人公の少女・浜路が、江戸で悪事を働く人と犬の血を引く“伏”という者たちと出会うストーリー。本作のメガホンを握った宮地昌幸監督に、映画化への想い、ジブリ時代の原体験、目指すアニメーションについて聞いた。

■ 気分は“2015年、江戸!” 原作の精神を継いでSF的な世界観を目指しました


Q:桜庭氏の「伏 贋作・里見八犬伝」を映像化する上で、もっとも惹かれた点はどこですか?

江戸時代が舞台の作品のお手伝いをしていた時に、アニメーションで時代劇を描くことが難しいということを知りました。基本的には茶色と土と木の世界で画が地味になってしまい、アニメーションの長所が活かせていなかったわけです。やがて原作に出会った時に、これは時代設定や時代考証にこだわらず、アニメーションの長所全開で描けば絶対に楽しいだろうと。総天然色じゃないけれど、“2015年、江戸!”の気分で作りたいと思いました。


Q:まさしく“大江戸ブレードランナー”という形容が当てはまる、SF時代劇になりました。

(笑)。映像的にも、ちょっとSFっぽい感じになれば面白いと思っていました。実際、桜庭さんとお話した時に“伏”は人造人間のレプリカントみたいなもので、迫害する人間に対して怨念を持っていますが、そこにモチーフがあったようです。であれば、そこを上手く継ぐと同時に、SF感も出そうと。

最初は江戸城が空中に浮いている案もありましたが、もはや桜庭さんの原作ではなくなるので、東京スカイツリーを目指す程度にしました(笑)。


Q:また、主人公の浜路は女の子ですが、女子の内面を扱う成長劇は難しくなかったですか?

女の子の場合――たとえば友だちができることで少し大人になる、好きな子に想いを告げようとしてできなくて涙を流す――そういう内面描写をポイントにしました。実は浜路が持っている鉄砲は、彼女の中の“男性”性と考えていただくといいと思います。訳も分からず江戸に出てきて成長する、だから最初は布で鉄砲を隠していますが、最後はむき身で走って行きますよね。それは自分の中の“男性”性と折り合いがついた、ということです。

■ 原点は宮崎駿監督との仕事――真のクリエイターの姿勢を目の当たりにしました


Q:全体的にはファンタジーですが、共感を集めそうな、リアルな筆致も印象に残りました。

それは一番意識したことで、もともと僕は日常を離れて変わったことをしでかす作風が苦手で、魔法って言われても自分には関係ないって思っちゃう(笑)。少しでも自分との関係性を見つけ、ファンタジーだけれども日々の生活と近いような表現を目指しました。以前、上京した子の都会は部屋にロフトがあることが衝撃だったという話を思い出して、ロフトっぽい場所も用意しました(笑)。奇想天外ではあるけれど、実感も沸く世界が好きですね。


Q:監督の作品は童心を思い出すワクワク感がありますよね。何に影響を受けていますか?

自分が携わった作品に影響を受けている感じはありますね。それは作風の話ではなく、本物のクリエイターの姿勢を目の当たりにしていた影響が強いです。僕はスタジオジブリでの宮崎(駿)さんとの仕事で、すべてが始まっていますが、アニメーション業界は楽しいことばっかりじゃないけれど、くじけず腐らず歩けた理由は、ジブリにいたおかげだと思っています。当時一緒に仕事をしていた人間がいて、今でも同じような現場で頑張っていますが、遠くで意識し合っています。ライバル、同志、いなくなったら寂しいような奴で。

Q:『千と千尋の神隠し』(01)で助監督を務めたそうですね。それはレアなケースだそうで。

そうですね。助監と言っても八つ当たりと話し相手を全身に浴びる係でしたが(笑)、今思えばいい経験でしたね。最初は右も左も分からずのAD時代で、生意気盛りで、鼻を折られて、いい薬になりました。その後、仕事をしていれば、しんどいことが山ほどあるわけですよ。夢も志もまったくないメンバーと仕事をするとか(笑)。前を向いて怒られているほうが、よっぽど良かったと思いました。今だったら、戻っていい助手になると思います(笑)。

■ コンセプトは駄菓子屋根性!! 少年少女が感激するアニメーションを作りたい


Q:『伏 鉄砲娘の捕物帳』が完成した今、宮地監督が想ういいアニメーションは何でしょう?

難しい質問です。究極的には僕の意見ですが、キャラクターが動いている時に、えも言われぬ感動があること、ですかね。それがいいアニメーションだと思います。画が動いているだけで涙が出る――そこに到達することが重要です。そもそもアニメーションって、画が動くから感動するわけですよ。今回で言うと“まっすぐに、走る”というコピーがありますが、主人公と彼女の心情が同時にも駆け出すシーンに、観る側も感情移入するはずです。


Q:「亡念のザムド」(08)も疾走感が心地よかったですが、信条的に大切にしているモノは?

なるべく暴力は描かずに、いつも少年少女の気持ちに寄り添っているようなアニメーションを作りたいですね。ピュアな気持ちが走り出す感動はアニメーションにしか表現し得ないとさえ思っています。浜路はアニメーションの画だからいいわけで、仮に浜路が主人公の実写版があったとしても、ピュア度で負けない自信があります。演者のバックグラウンドが一切出ないので、アニメーションはピュアをよりピュアに描くことが可能だからです。


Q:最後になりますが、『伏 鉄砲娘の捕物帳』は成長過程の若い人に観てほしい映画ですね。

なるべく多くの世代の方が楽しめる内容に作っていますが、個人的には浜路と同じく14歳の少年少女たちに観てほしいです。主題歌を歌ってくださったCharaさんに昔の自分を見るようだって言っていただいたようですが、懐かしい初恋のホロ苦い気持ちを思い出して、その後に飲みに行ってもいいですよね(笑)。いずれにしても初々しい気持ちを思い出す作品になっていますが、それは僕の中に少年少女を感激させたい、言ってみれば駄菓子屋根性があるからです(笑)。ギトギトした色味で体にちょっぴり悪そうな菓子ですが、子どもは大感激みたいな。この映画を観て、子ども時代を思い出していただければうれしいです。


■取材・構成・撮影/鴇田 崇(OFFICE NIAGARA)

作品情報

『伏 鉄砲娘の捕物帳』
10月20日(土)よりテアトル新宿ほか全国ロードショー

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© 桜庭一樹・文藝春秋/2012映画「伏」製作委員会