インタビュー
直木賞作家・道尾秀介の本格ミステリーを原作に、中年サギ師コンビと3人の若者たちが一世一代の大勝負に出るまでを描く映画『カラスの親指』! 悲しい過去を背負い、カラス=サギ師として生きる主人公タケを演じる名優が、日本映画界が誇る実力派・阿部寛だ! 相棒テツ役の村上ショージとの共演の感想や、タケという男に見出した人間性の話、そして愛情に満ちた撮影のこと、俳優としての新たな発見のことまで、さまざまな話を聞いた!
■村上ショージとの共演が最大の挑戦!? 過去のどのキャラクターよりも人間味が出た
Q:数々のキャラクターを演じていると思いますが、今回最大のチャレンジは何でしたか?
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自分にとって今回の新しい挑戦としては、村上ショージさんですね(笑)。俳優の僕がお笑い芸人の方と一緒にコンビを組み、作品を面白くできるか、ってことでした。ショージさんは俳優を本職にしている方ではないので、お笑いの方が持っている独特の世界観、人との距離感があるじゃないですか。その中で、僕が作品を一緒に作り上げていくことができるか、ショージさんといいペアを組めるかどうかが、僕自身の中での最大の挑戦でしたね。
Q:その心配は無用でしたよね。完成した作品を観て、名詐欺師コンビが誕生していました!
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そうですね(笑)。監督がテツというキャラクターは絶対にショージさんと言っていた理由が、すごくよく分かりましたよ。ショージさんが持っている人となりと言いますか、長年しゃべりの仕事で苦労を重ねた背中や人間性、そういうものがすごくテツというキャラクターに合っていたと思う。だから、僕はそこに参加するだけで十分だったと思いましたね。
Q:伊藤匡史監督は長編2作目だったそうですね。どういうタイプの演出をする監督ですか?
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伊藤監督はとてもこだわりと愛情を持って、この作品を撮り続けてくれて、カット数が尋常じゃないほど多かった(笑)。それは、監督の中で撮りたいモノがハッキリとしていることだったと思うので、撮影現場はすごく順調でしたよ。伊藤監督は自分のこだわりをハッキリと俳優たちに伝えながら、キャストたちの演技もすごくよく見ていました。だからそういう意味で、今まで自分が演じたどのキャラクターたちよりも、タケという男には人間臭い側面がより強く出ていたように思いました。それは僕自身、すごく感謝していますね。
■主人公はサギ師で悪いけれど、常識や人間の部分でギリギリ止まっているような男
Q:ところで、サギ師も俳優業も演技力が必要という意味では、共通していると思いますか?
劇中で3回ほどサギ師として演じるシーンがありますが、それぞれの“キャラクター”をどういう風に演じようかは俳優の目線で考えて演じていたので違いはないでしょうね(笑)。
Q:監督と積極的に相談したそうですが、最終的にタケという男をどう受け止めましたか?
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最初から監督に相談はしていました(笑)。監督がOKであればOKだと思っていました。だから、監督が作品や僕の演じたキャラクターに対してつかめた段階で、自分もつかめたと思いますよ。タケで一番好きな点は、これだけの悲劇に遭って道を踏み外して、普通の職業にも就けなくなっているけれども、生きていこうとする姿。そこに本来の人間臭さを感じました。
Q:タケ自身も困難から逃げずに立ち向かう勇気や強さを、自覚する瞬間がありますね。
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人はいろいろな苦労を経験するもので、たとえば戦時中もそうだったと思うけれど、泥臭いことをしながらも一生懸命に生きていくじゃないですか。何もなくても一生懸命に生きていく、そういう強い一面を彼が持っていたので、そこが一番好きな点でしたね。これだけの悲劇に遭ったら、普通のサラリーマンだったらもう立ち直れない。そう思うところを、それでも生きていく姿がとても好きでしたね。悪いことをしているけれど、言うほど悪い奴じゃないというか、常識、人間の部分でギリギリ止まっていたような気もしましたしね。
■原作者が疑似家族の暮らす一軒家のセットを見て感激!! それに尽きますね
Q:5人の共同生活、チームワークも楽しい本作ですが、改めての発見などはありましたか?
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共演者って、改めて大事だなって思いましたね。皆で1個のモノを作っていくこと、それぞれが1つの部品になっていくということを、この5人は全員知っていた。最初の本読みの段階で、それぞれのキャラクターについて面白いなって思えました。普通なかなかそうはならないけれど、一歩踏み出した時から信頼関係があったと思う。そこを監督がジャッジして進めて、映画としては2本目なのに責任を負う姿が今回すべてだったと思いますね。
Q:5人は疑似家族を形成しますよね。同じ空間にて同居する中での演技はいかがでしたか?
ひとつ屋根の下の共同生活って、ホッとすると言うか、安心しますよね。そういう日本人が大好きな感じは出ていますよね。原作者の方が疑似家族の暮らす一軒家のセットを見て、自分が思うとおりのセットになったと感激したそうです。映画を観終わった時も書いた作品が、そのまま映像になっていたと。だいたいは違うものになるけれど、その言葉に尽きると思います。その重みも何も全部、上手いこと映像の中で消化したとうことでしょうね。
Q:監督の熱意と愛情、キャストの努力と情熱が『カラスの親指』という秀作を生みました!
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テイク数が多くなると、現場の雰囲気が徐々に悪くなっていくことがあるようですが(笑)、そういうことは一切なく、監督も気にせず頑張って撮っていて、それは本当に頭が下がる思いです。監督のこだわりに、皆がついていった面はあると思いますね。映画監督の作品に対する愛情の強さが、一番じゃないかなって思います。2時間40分とちょっと長いですが、それも監督の愛情ゆえのことです(笑)。今回、揺るがない精神力を一番学びましたね。
■取材・構成・撮影/鴇田 崇(OFFICE NIAGARA)
作品情報
『カラスの親指』
2012年11月23日(金・祝)より、全国ロードショー
配給:20世紀フォックス映画/ファントム・フィルム
© 道尾秀介・講談社/2012「カラスの親指」フィルムパートナーズ